13.お客様は断れない。感謝されながら客単価を上げる「クロスセルの魔術」

「値上げをしたら、お客様が離れていってしまう…」

この、呪いのような言葉が、あなたの頭の中に、こびりついて離れないのではないでしょうか。

その結果、あなたは、原材料費が高騰しても、周りの競合が値上げをしても、ただひたすらに価格を据え置き、自らの利益を削り、魂をすり減らし続けている…。

もし、そうだとしたら、あなたは、経営における、最も重要で、そして、最も根本的な「間違い」を犯しています。

その間違いとは、価格を「コスト」や「競合」を基準に決めている、ということです。

前回の記事で、「増益繁盛メソッド」の全体像と、その心臓部である「5つのエンジン」についてお話ししました。今回からは、そのエンジンを一つずつ、具体的に掘り下げていきます。

最初のテーマは、全ての基本となる「利益改善エンジン」。そして、その核心をなす「値決め」の技術です。

この記事を読み終えた時、あなたは、値上げに対する恐怖から完全に解放され、むしろ、お客様に「ありがとう」と感謝されながら、堂々と、適正な価格で、自らの価値を提供できるようになっていることをお約束します。

あなたは、何を「売って」いますか?

突然ですが、あなたに質問です。

  • ラーメン屋の店主は、何を売っていますか? → 「ラーメン」
  • 美容師は、何を売っていますか? → 「カットやカラー」
  • コンサルタントは、何を売っていますか? → 「アドバイス」

もし、あなたが、このように答えたのなら、それが、あなたの利益が、いつまで経っても増えない、根本的な原因です。

なぜなら、お客様は、「モノ」そのものを買っているのではないからです。

お客様が、本当に、お金を払ってでも手に入れたいと願っているのは、その「モノ」を通じて得られる、特定の「感情」や「体験」、そして、「未来の変化」なのです。

  • お客様は、「ラーメン」という小麦とスープの塊が欲しいのではありません。そのラーメンをすすることによって得られる「幸福感」や「満足感」、「懐かしい思い出」に、お金を払っているのです。
  • お客様は、「髪を切る」という作業が欲しいのではありません。新しいヘアスタイルになることで得られる「自信」や「ワクワクする気持ち」、「新しい自分に生まれ変わる」という体験に、お金を払っているのです。
  • お客様は、「アドバイス」という情報が欲しいのではありません。そのアドバイスを実行することで得られる「問題解決」や「目標達成」、「明るい未来」に、お金を払っているのです。

これを、マーケティング用語で「ベネフィット」と言います。

そして、驚くべきことに、お客様が感じる「価値(ベネフィット)」は、あなたが提供している「モノ(商品)」の原価とは、全く、何の関係もありません。

「松竹梅」の法則:お客様は、なぜ「竹」を選ぶのか?

あなたが、もし、たった1種類の商品しか、お客様に提示していないとしたら、それは、莫大な利益の機会を、自らドブに捨てているようなものです。

人間の心理には、非常に面白い特徴があります。
それは、3つの選択肢を提示されると、無意識のうちに「真ん中」を選んでしまう、というものです。これを、「ゴルディロックス効果」、あるいは、日本では「松竹梅の法則」と呼びます。

  • 梅:1,000円のランチ(一番安い。でも、ちょっと物足りないかも…)
  • 竹:1,500円のランチ(梅より高いけど、デザートも付いてる。一番、無難かな)
  • 松:2,500円のランチ(最高級。でも、今日のランチに、そこまでお金をかけるのは…)

この場合、ほとんどのお客様が、お店が「売りたい」と思っている「竹」のランチを、自らの意思で、納得して選んでくれるのです。

もし、あなたが、1,000円のランチしか用意していなかったら、あなたのお店の客単価は、永遠に1,000円のままです。

しかし、ここに、絶妙な価格設定の「松」と「梅」を用意するだけで、お客様は、喜んで、1,500円を支払ってくれるようになります。そして、中には、特別な日だからと、「松」を選んでくれるお客様も現れるでしょう。

あなたは、お客様に、「選ぶ楽しみ」と「自己決定の満足感」を提供しながら、同時に、お店の利益を、劇的に向上させることができるのです。

価格を「上げる」のではない。価値を「伝える」のだ。

「値決めは、経営なり」

これは、経営の神様、稲盛和夫氏の言葉です。

あなたの商品やサービスの価格は、あなたが、自らの仕事に対して、どれほどの「価値」を感じているのか、その「覚悟」の現れでもあります。

安易な値下げは、あなた自身の価値を、自ら貶める、愚かな行為です。

あなたが、本当に向き合うべきは、「いくらにしようか?」という、価格の数字そのものではありません。

「この商品やサービスは、お客様の人生を、どのように、どれだけ豊かにすることができるのか?」

この問いに対して、深く、深く、向き合い、そして、そこで見つけ出した「価値」を、お客様に、正しく、そして、情熱を持って「伝える」努力をすることです。

その「価値」が、お客様に、正しく伝わった時。
お客様は、あなたの提示する価格を、驚くほど、すんなりと受け入れてくれるでしょう。

なぜなら、彼らは、もはや、その価格を「値段」としてではなく、自らの「明るい未来」を手に入れるための、「投資」として、認識しているからです。

次の記事では、「増益繁盛メソッド」の2番目のエンジンである、「店内販促エンジン」について、詳しく解説します。
お客様の財布の紐を、魔法のように緩めてしまう、悪魔的なセールスの技術とは…?

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ハワードジョイマン

コピーライター/店舗利益最大化コンサルタント 中小企業診断士(経済産業省登録番号 402345) 絵本作家(構想・シナリオ担当) ・有限会社繁盛店研究所 取締役 ・株式会社繁盛店研究出版 代表取締役 ・株式会社日本中央投資会 代表取締役 ・繁盛店グループ総代表 1975年 静岡県清水市生まれ(現在:静岡市清水区) 自営業の家に生まれ、親戚一同も会社経営をしていることから、小さい頃より受付台にたち、商売を学ぶ。 大学入学と同時にお笑い芸人としての活動を経験。活動中は、九州松早グループの運営するファミリーマートのCMに出演。急性膵炎による父の急死により大学卒業後、清水市役所に奉職。 市役所在職中に中小企業診断士の取得を始める。昼間は市役所で働き、夜は診断士の受験勉強。そして、週末は現場経験を積むため無給でイタリアンレストランでの現場修行を経験。6年間の試験勉強を経て、中小企業診断士資格を取得。 取得を契機に7年目で市役所退職。退職後、有限会社繁盛店研究所(旧:有限会社マーケット・クリエーション)を設立。 お笑い芸人として活動していた経験から、小売店や飲食店、美容室、整体院の客数増加や店内販売活動に、お笑い芸人の思考法や行動スタイル、漫才の手法などを取り入れることで、クライアントの業績が着実に向上していく。 こうした実績を積み上がるに従い、信奉者が増える。独自の繁盛店メソッド「笑人の繁盛術」の考え方で、コンサルティングを行う。 発行するメールマガジンは、専門用語を使わない分かりやすい内容から、メルマガ読者からの業績アップ報告が多く、読者総数は1万人を超える。 会員制コンサルティングサポート「増益繁盛クラブ」を運営。人気テレビ番組ガイアの夜明けにも取り上げられるなど注目を浴びる。これまで北は北海道から南は沖縄、そして、アメリカからも参加する方がいるなど、多くの方が実践を続けている。 コンサルタントが購読する「企業診断」(同友館)からもコンサルタントに向けた連載を依頼されるなど、コンサルタントのコンサルタントとしても活躍中。 独自の株式投資経験から株式投資メソッドを確立し、株式投資コミュニティ「株研」も運営する。 どんなに仕事が忙しくとも毎月1回の先祖のお墓参りを大事にしている。家族を愛するマーケッター。