飲食店で店長を育成するなら、経営方針を言語化してスタッフと共有するところから
飲食店オーナーさんに一つ聞いてみたいことがあります。
「あなたのお店の経営方針を、今すぐ紙に書き出せますか?」
実は、私がこれまで関わってきた1,000店舗以上の飲食店のうち、経営方針を文字に落として全スタッフと共有できているお店は、肌感覚で言うと1割にも満たないんです。
多くの店主さんは「自分の頭の中には方針がある」とおっしゃいます。でも、それをスタッフが理解しているかというと、話は別です。方針が「頭の中」にある限り、それは存在しないのと同じです。スタッフは動けない。当然、店長も育たない。
今日は、経営方針の言語化と共有を実践することで、わずか数ヶ月で店長候補が育ち始めた飲食店の事例を詳しくお伝えします。自分のお店と照らし合わせながら読んでみてください。
こんな方におすすめ
- ✅ 「いずれ店長を育てたい」と思いながら、何から手をつければいいかわからない方
- ✅ スタッフに任せると接客や提案がバラバラになってしまうと感じている飲食店オーナー
- ✅ 自分が現場を抜けると売上が落ちる構造から脱け出したい方
- ✅ 経営方針を作りたいけれど、どう言語化すれば伝わるかわからない方
- ✅ スタッフが辞めやすい、定着しないと悩んでいる飲食店経営者

「なぜスタッフに言っても動かないのか」の本当の理由
今回ご紹介するのは、静岡県内で居酒屋を経営するAオーナー(50代男性)の事例です。席数40席、社員3名+アルバイト5名という構成で、月商は約600万円。経営歴は10年を超えていました。
Aオーナーが最初に私のところへ相談に来たときの悩みは「スタッフが育たない」「自分がいないと売上が落ちる」でした。「何度言っても同じミスをする」「アイデアを出してほしいと頼んでも何も出てこない」と、かなり疲弊した様子でした。
話を聞いていくと、共通するある問題が浮かび上がってきました。
Aオーナーがスタッフに伝えている指示が、すべて「こうしろ」「ああしろ」という行動レベルのものだけだったんです。
「お客さんが来たら笑顔で迎えろ」「注文を聞いたらすぐ厨房に通せ」「テーブルが空いたらすぐ片付けろ」。これはすべて正しい指示です。でも、スタッフの頭には「なぜそうするのか」が入っていない。
だから、イレギュラーな場面になった途端に止まってしまう。マニュアルに書いていない状況が起きると、オーナーを呼びに来る。自分で判断できない。
これは能力の問題じゃないんです。判断の基準を渡されていないから動けないだけです。
実際にどう「経営方針」を言語化したか
まず私がAオーナーに頼んだのは、次の3つの問いに答えることでした。
①なぜこの居酒屋を始めたのか
②どんなお客さんに来てほしいのか
③そのお客さんにとって、このお店はどんな存在でありたいのか
最初、Aオーナーは「うーん、おいしい料理を出して、お客さんに喜んでもらいたいだけなんですよね」と言っていました。
でも、話を掘り下げていくと出てきたんです。「地元の工場で働いている人たちが、仕事終わりに一杯飲んで疲れを癒せる場所を作りたかった」という話が。
お父さんが職人で、現場仕事の大変さを間近で見てきた。だからこそ、働く人の「ほっとできる場所」を作りたかった。それが開業の動機だったわけです。
これを一枚の紙にまとめました。「うちの店は、地元で汗をかいて働く人たちが、仕事終わりに肩の力を抜けるお店です。だから接客は明るく気さくに、料理は量をしっかり出す、価格は働く人が通いやすい水準を守る」と。
たったこれだけのことですが、スタッフ全員がこれを読んだとき、反応がはっきり変わりました。「あ、だからこういうお店なんだ」という表情が出てきた。
方針を共有してから、スタッフの行動がどう変わったか
経営方針を共有してから、一番最初に変わったのは「スタッフからの質問の種類」でした。
以前は「どうしたらいいですか?」という判断を求める質問が多かった。ところが、方針を共有してから数週間すると「こういうお客さんがいたんですが、こうしたのでいいですよね?」という報告型の会話に変わってきたんです。
自分で判断して、後から確認する。この変化は小さいようで、実は大きな変化です。
さらに、翌月のミーティングで私から「今月、お客さんの満足度を上げるためにできることを一人1つ考えてきてください」とお願いしました。方針を言語化する前にも同じお願いをしたことがあったらしいのですが、そのときは誰も何も出してこなかったそうです。
でも今回は違いました。5人のスタッフ全員が何かしらのアイデアを持ってきた。「常連さんの誕生日を覚えてひと言声をかける」「仕事終わりで来るお客さんが多いから、最初の一杯を少しでも早く出す段取りを変える」など、いずれも経営方針の「働く人がほっとできる場所」に沿ったアイデアでした。
これが大事なんです。テーマを絞って考えてもらう、ということが。「何かいいアイデアない?」ではなく「購入率を上げるにはどうすればいい?」「来店頻度を上げるにはどうすればいい?」と聞く。するとスタッフは動ける。漠然とした問いには、誰も答えられないですよね。わかりますよね。
✓ ここまでのポイント
- スタッフが動けない原因は能力ではなく「判断基準」が渡されていないこと
- 経営方針は「なぜ始めたのか」「誰のための店か」「何を届けたいのか」の3問に答えるだけで言語化できる
- 方針を共有すると、スタッフへの問いかけをテーマ一本に絞るだけでアイデアが出るようになる
数字の変化と、店長候補が生まれるまでの経緯
経営方針の言語化と共有を始めてから約3ヶ月後、Aオーナーから連絡がありました。
「ジョイマンさん、最近気づいたんですが、自分が厨房に集中できる時間が増えました。ホールはスタッフに任せても回るようになってきて」という内容でした。
さらに半年後、社員の一人が自主的にシフト管理と発注の一部を引き受けるようになっていました。オーナーが頼んだわけではありません。「自分がこの仕事を担う意味」を感じ始めたから、自然と動いてくれるようになったわけです。これが店長育成の入り口です。
売上の数字で言うと、この半年で月商が600万円台から700万円を超えました。特別な集客策を打ったわけではありません。スタッフが方針に沿って動けるようになったことで、接客の質が底上げされ、常連客の来店頻度が上がった。それだけで売上が動いたんです。
「最初は方針を書いても意味があるのか半信半疑でした。でも共有してからスタッフが変わったというより、自分のスタッフへの接し方が変わった気がします。一緒に目指すものが見えてきた感覚で、今は仕事がちょっと楽しくなっています」
居酒屋オーナー・50代男性
この事例から自分のお店に使える「再現ポイント」
Aオーナーの話を聞いて「うちとは規模が違う」「うちの業態では合わない」と感じた方もいるかもしれません。でも、この話の本質は業態や規模に関係ないです。
再現性があるポイントを3つに絞りますね。
1. 経営方針は「一枚の紙」でいい
立派な経営理念書を作る必要はないです。「誰のための店で、何を届けたいのか」が1〜3行で書いてあるだけで、スタッフの行動は変わります。まずこれを今週中に書いてみてください。
2. 共有の場は朝礼でも週次ミーティングでも5分でいい
大げさにやる必要はないです。「このお店はこういう気持ちでやっています」という話を、普段の会話の中でするだけで十分です。大事なのは一度話して終わりにしないこと。繰り返すこと。
3. スタッフに考えてもらう時はテーマを一本に絞る
「何かいいアイデアない?」では誰も動けません。「今月、リピート客を増やすためにできることを一人1つ考えてきて」と、テーマと範囲を絞って出してもらう。これだけで雲泥の差が出ます。
「方針を貼り出してから、アルバイトの子が『うちって地域の人に愛されてるお店なんですね』と言ってくれたんです。その一言でこっちが泣きそうになりました」
焼き鳥店オーナー・40代男性
まとめ:店長育成は「仕組みを渡す」ことから始まる
今日お伝えしてきたことをひと言でまとめると、「店長は育てるものじゃなく、育つ環境を整えるもの」ということです。
スタッフに判断の基準を渡さないまま「もっと自分で考えてほしい」と言っても、それは無理な注文です。逆に、経営方針という「お店の憲法」を共有できれば、スタッフは迷わず動けるようになり、オーナーはじわじわと現場を離れられるようになっていきます。
値引きしなくても客は来る。売上を追わなくても利益は残る。がんばらない繁盛の入り口は、実はこういう地味なところにあるんです。
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