「息子に継がせたいけれど、今の状態では継いでほしいとは言えない」
「長年一緒にやってきたスタッフに任せたいが、本当に大丈夫なのか不安で踏み出せない」
「後継者が見つからないから、もう廃業しかないと思い始めている」
全国の飲食店オーナーさんから、このような声を本当によく聞きます。20年間、中小企業診断士として全国1,000店舗以上の経営に関わってきた中で、事業承継の相談は年々増えています。そして多くのケースで、問題の根っこは同じところにある。
「承継する仕組みがないまま、渡そうとしている」というパターンです。
この記事では、実際の飲食店での事業承継のケースをもとに、「継がせる価値のある店」に作り変えるとはどういうことか、具体的にお伝えします。
📋 この記事でわかること
- 飲食店の事業承継が進まない本当の理由(属人化の問題)
- 「継がせる価値のある店」に作り変えるための具体的なステップ
- 身内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の選択肢と使い分け
- 承継前の2〜3年間にやるべき「仕込み」の中身
こんな方におすすめ
- ✅ 将来の事業承継を視野に入れている飲食店オーナーさん
- ✅ 後継者候補はいるが、今の状態で渡すのに不安がある方
- ✅ 「自分がいないと回らない」という状態から抜け出したい経営者さん
- ✅ 廃業ではなく、お店を次の世代につないでいきたいと考えている方
- ✅ 第三者承継(M&A)という選択肢を初めて考え始めた方

「継いでも大丈夫か」と後継者が感じる店の共通点
ある焼鳥店のオーナーさん(60代)から相談を受けた時のことです。創業25年、地元では知る人ぞ知る名店。息子さんはすでに店で働いていて、将来は継ぐ意思もある。でも、その息子さんが私に言った言葉が印象的でした。
「父が3日休んだだけで、常連さんがぱったり来なくなるんです。」
これが、事業承継が難しくなる店の典型的なパターンです。お客さんが「店」ではなく「店主個人」に来ている状態。レシピも、常連さんとの関係も、仕入れ先との交渉も、すべてオーナーの頭の中にある。
こういう状態で「継いでほしい」と言われても、後継者の立場からすれば「何を引き継げばいいのかわからない」が本音なんです。わかりますよね。
さらに深刻なのは、利益構造の問題です。そのオーナーさんの店は、常にホットペッパーのクーポンで集客していて、忙しい日は満席なのに月末の通帳残高がじりじり減っていく。息子さんの目には「この仕事量で、この利益しか残らないのか」と映っていました。息子さんが承継をためらっていたのは、やる気の問題でも愛情の問題でもなかった。「この店の利益構造では、自分の人生を賭けられない」という現実的な判断だったんです。
事業承継の成否は「渡す前の数年間」で9割決まる
多くの経営者さんが誤解しているのが、「後継者が決まったら承継の準備を始めよう」という順番です。実際は逆で、後継者が決まる前から準備を始めないと間に合いません。
別のケースを紹介します。静岡市内でイタリアンレストランを営む50代のオーナーさん。信頼できるスタッフに承継を検討していたものの、そのスタッフが「自分では無理です」と断ってきた。理由を聞くと、こう言ったそうです。「シェフがいなくなったら、お客さんがついてこないと思って」と。
これも属人化の問題です。でも逆に言えば、ここに解決の糸口があります。
「承継できない店というのは、店主の『腕』で回っている店です。承継できる店というのは、店主の『仕組み』で回っている店。腕は渡せませんが、仕組みは渡せます。この2年で、あなたの店を仕組みで回る店に変えましょう。」
ハワードジョイマン(中小企業診断士・販促アイデア100選)
そのイタリアンのオーナーさんとは、そこから2年かけて準備を進めました。具体的にやったことは後述しますが、結果として承継は成功しています。今はそのスタッフがオーナーとして店を切り盛りし、月商は承継前より伸びています。
✓ ここまでのポイント
- 後継者が承継をためらう本当の理由は「属人化」と「利益構造の問題」にある
- 承継の準備は後継者が決まってからではなく、2〜3年前から始めるのが鉄則
「継がせる価値のある店」に変えるための3つの仕込み
では、具体的に何をすれば「継がせる価値のある店」になるのか。3つのステップでお伝えします。
承継準備 STEP 1
利益構造を健全にする
まず、値引きクーポンに頼った集客から脱却してください。「ホットペッパーで集めた客がリピートしない」「忙しいのに利益が残らない」という状態のまま渡すのは、後継者に借金を背負わせるようなものです。集客商品と収益商品を分けて設計し直す。具体的には、目玉メニューで人を集め、関連商品やプレミアムコースでしっかり利益を取る構造にします。また、見せ球の高額コース(当て玉)をつくって既存メニューを相対的に安く見せる。新メニューは既存より20%以上高くするルールを徹底する。これだけで、客数を増やさなくても利益率が変わってきます。
⚠️ よくある失敗:「承継してから利益構造を変えてもらおう」と先送りするケース。後継者に改革を押し付けると、スタートから重荷を背負わせることになり、承継後に経営が苦しくなる原因になります。
承継準備 STEP 2
接客・販促を「仕組み」に落とし込む
オーナーの頭の中にあるものを、見える形に変えていきます。まず「経営方針」──なぜこの店をやっているのか、どんなお客さんに何を届けたいのかを文章にして、スタッフ全員と共有します。次に、メニュー表とPOPを「ご利益中心のネーミング」に書き換える。「本日のおすすめ」ではなく、「地元清水産の桜えびを使った、漁港直送のかき揚げ丼」のように、素材の背景や手間を言葉にして価値を見える化する。さらに、「未来計画表」を使って半年先の来店ペースをお客さんと共有し、次回予約をその場で取る習慣を店全体に定着させる。これができれば、誰が担当しても一定レベルの接客ができる状態になります。
⚠️ よくある失敗:マニュアルを作ることだけが目的になり、現場で使われないまま棚の中に眠るケース。仕組みは「全員が日常業務として使っている状態」になってはじめて意味を持ちます。
承継準備 STEP 3
後継者の売上を先に育てる
これが一番見落とされがちです。オーナーの指名客が突出して多い状態のまま渡しても、後継者は「自分は主役になれない」と感じて動けません。承継前から意図的に後継者の担当客を増やしていく必要があります。未来計画表でお客さんの次回来店予約を取る際に、「次回は〇〇(後継者名)が担当しますね」と自然に引き継いでいく。常連さんとの関係も、少しずつ後継者に移していく。後継者自身の売上実績が積み上がると、「自分にもできる」という自信につながり、承継後の定着率も大きく変わります。
⚠️ よくある失敗:「承継してから自分でお客さんを作っていけばいい」と考えるケース。顧客基盤のゼロからのスタートは、後継者にとって想像以上の負荷になります。
「月商130万円だった焼き鳥店が230万円に伸びたのは、偶然でも才能でもありません。売上の7つの軸のどこに穴があるかを特定して、2週間で3つずつ実行し続けた結果です。承継の準備も同じで、一気にやろうとしないこと。毎週1つずつ仕組みに落とし込んでいけば、2年後には全然違う店になっています。」
ハワードジョイマン(中小企業診断士・販促アイデア100選)
身内承継・従業員承継・第三者承継、どう使い分けるか
承継の形には大きく3つあります。それぞれの特徴と、どんな状況の店に向いているかをお伝えします。
❌ 「後継者は身内しかいない」という思い込み
- 選択肢が狭まり、無理な承継を強いる結果になりやすい
- 身内に継ぐ意思がない場合、廃業一択になってしまう
✅ 3つの選択肢を俯瞰してから最善を選ぶ
- 身内承継:意思があり、承継前から育てられる環境がある場合に最適
- 従業員承継:長く一緒にやってきたスタッフがいる場合。STEP2・3の仕組み化が先決
- 第三者承継(M&A):後継者がいないケースの有力な選択肢。ただし利益構造が健全な店でないと買い手がつかない
私自身、投資家として事業再生・事業承継の現場に関わってきた中で、何度も見てきたことがあります。利益が残る仕組みがある店と、オーナーの属人芸で回っている店とでは、第三者承継の選択肢の数が10倍以上変わります。買い手が「この店を継いで発展させたい」と感じる店の条件は、実はシンプルです。「仕組みがあること」「利益が残っていること」の2つだけです。
「赤字経営から脱却し、年商を2倍にした美容室のオーナーさんは、最初の相談から3年後に従業員承継を成功させました。最初の1年で利益構造を変え、2年目でスタッフの売上を育て、3年目に承継。この順番が大事です。」
ハワードジョイマン(中小企業診断士・販促アイデア100選)
「今すぐ動く」ことが最大の承継戦略
冒頭の焼鳥店のオーナーさんは、相談から2年後に息子さんへの承継を完了しました。変えたこととやったことを振り返ると、こうです。
まず値引きクーポンをやめて、メニュー表をご利益中心のネーミングに書き換えた。「16時間かけてじっくり炭火で焼いた砂肝の旨塩焼き」「地元清水の養鶏場から直仕入れのむね肉炭焼き」という言葉に変えただけで、客単価が上がりました。次に未来計画表を導入して、次回予約をその場で取る仕組みを全スタッフに浸透させた。そして息子さんが担当する常連客を少しずつ増やしながら、経営方針を文章にして親子で共有した。
2年間でやったことは、特別なことは何一つありません。2週間で3つずつ実行する、それだけを続けた結果です。
「元気なうちに、納得のいく形で渡したい」という気持ちがあるなら、今日から動き始めてください。承継の準備に「早すぎる」ということはありません。でも「遅すぎる」はあります。
「地方都市のパスタ店が前年比151万円の売上増を達成できたのも、全国500社を超える経営者が同じ悩みを乗り越えてきたのも、みんな『今日から動いた』ことが出発点でした。」
増益繁盛クラブ ゴールドメンバーの声より
まとめ:飲食店の事業承継は「作り変える」ことから始まる
この記事でお伝えしたことをまとめます。
- 後継者が承継をためらう理由の9割は「属人化」と「利益構造の問題」
- 承継の準備は後継者が決まってからではなく、2〜3年前から「継がせる価値のある店」に作り変えることが先決
- STEP1:利益構造を健全にする(値引き依存からの脱却)
- STEP2:接客・販促を仕組みに落とし込む(ご利益中心ネーミング・未来計画表など)
- STEP3:後継者の売上を先に育てる(顧客の引き継ぎを意図的に進める)
- 身内承継・従業員承継・第三者承継の3択を俯瞰したうえで最善を選ぶ
事業承継は「特別なイベント」ではなく、日々の経営改善の延長線上にあります。仕組みで回る店を作ることが、最高の承継準備です。そしてその仕組み作りは、承継の有無に関わらず、今の売上と利益を伸ばすことにも直結します。
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静岡県静岡市清水区を拠点に、北海道から沖縄・アメリカまで累計1,000店舗以上の飲食店・美容室・小売店オーナーの経営改善を支援してきた中小企業診断士(経済産業省登録番号 402345)ハワードジョイマンが、あなたの店の事業承継を一緒に考えます。お気軽にどうぞ。