結論から言うと、人件費高騰が続く今の飲食業で利益を守るには、「固定費を自社だけで背負い続ける直営モデル」から脱却することが最も現実的な対策のひとつです。そしてそのための有効な手段が、FC本部化です。
令和8年度の最低賃金は全国加重平均1,177円(前年度比56円引上げ)と、過去最大水準の引き上げが続いています(厚生労働省 令和8年度地域別最低賃金の答申)。直営店を増やすほど固定費の塊は大きくなり、利益が圧迫される構造は変わりません。にもかかわらず、多くの経営者様がFC化を検討しながらも足踏みしているのは、「加盟店が本当に儲かるモデルを設計できるか自信がない」という不安があるからではないでしょうか。
この記事では、人件費・家賃という飲食の二大固定費を正面から織り込んだ現実的なモデル収益の設計こそがFC本部化の根幹であること、そしてそれが加盟店の閉店を防ぎ、本部の持続にもつながることを、具体的なポイントで解説します。
📋 この記事でわかること
- 人件費高騰がなぜ直営モデルの利益を圧迫するのか、構造的な理由
- FC本部化が人件費コスト問題への有効な対策となる3つのポイント
- 加盟店が儲かるモデル収益を設計するために外せない固定費の扱い方
- 机上の数字ではなく直営データを使った収益設計の進め方
こんな方におすすめ
- ✅ 最低賃金の引き上げで直営店の利益が圧迫され、出口を探している方
- ✅ FC化に興味はあるが、加盟者が本当に儲かるモデルを作れるか不安な方
- ✅ 家賃・人件費を織り込んだ現実的なモデル収益の設計方法を知りたい方
- ✅ 直営3〜10店舗で経営の壁を感じ、本部化を本格的に検討し始めた飲食経営者の方
- ✅ 加盟店の閉店やトラブルを起こさない、誠実なFC本部を作りたい方

人件費高騰が直営モデルを直撃する、構造的な理由
飲食業の固定費は、大きく「家賃」と「人件費」の二本柱で構成されています。この二大固定費は、売上が下がっても基本的に変わりません。直営で店舗を増やすとは、この固定費の塊を自社だけで積み上げていくことを意味します。
中小企業庁「2026年版中小企業白書」によると、小規模事業者の労働分配率は約8割にのぼります。売上の大半が人件費に消えていく構造の中で、最低賃金が毎年引き上げられれば、手元に残る利益は年々細くなる一方です。
さらに帝国データバンクの調査によると、2025年の「人手不足」関連倒産は過去最多の397件(東京商工リサーチ「2025年の全国企業倒産」)に達しました。人が採れないだけでなく、採れたとしても人件費が利益を超えてしまうケースが増えています。
直営を増やして売上規模を拡大しようとするほど、この固定費のリスクを自社で抱え込む面積が広がります。では、この構造にどう対処するか。そこにFC本部化の本質的な意味があります。
ポイント1:固定費リスクを加盟者の資本に分散する
FC化の根本的なメリットのひとつは、店舗を増やす際の固定費リスクを加盟者の資本で分散できることです。直営で新店を出せば、その店舗の家賃・人件費はすべて自社の固定費として積み上がります。しかしFC加盟店であれば、その店舗を運営するための固定費は加盟者が負担します。
これは「リスクを押し付ける」ということでは決してありません。加盟者が自分の資本と覚悟で事業を運営するからこそ、経営に対して当事者意識が生まれ、店舗の生産性も上がりやすくなります。直営の雇われ店長と、自らオーナーとして経営する加盟者では、コスト意識も動き方も根本から違います。
ただし、ここで重要なのは「加盟者が本当に固定費を賄えるモデルになっているか」という点です。家賃と人件費を正確に積み上げた現実的な収益モデルがなければ、加盟者はいずれ資金繰りに行き詰まり、閉店という最悪の結果を招きます。その閉店は加盟者だけの問題ではなく、本部のブランドと信頼を根底から傷つけます。
「加盟店が儲かることが、本部が続くことだと思っています。店舗数を増やすことよりも、1店舗1店舗が閉店しない仕組みを作ることを優先してきました。」
ハワード・ジョイマン(飲食店FC本部構築支援コンサルタント・中小企業診断士)
ポイント2:机上の数字ではなく、直営の実データで収益モデルを設計する
多くの経営者様がFC化の検討で行き詰まる場面のひとつが、モデル収益の設計です。「この収益計画で加盟者が本当に儲かるのか確信が持てない」という声は、私が支援してきた833件超の経営相談の中でも、特に繰り返し聞かれてきた言葉です。
なぜ確信が持てないのか。それはほとんどの場合、収益モデルの数字が「理想値」で組まれているからです。売上は平均的な想定、人件費は最低限の配置、家賃は低めの物件で計算——そのような机上の積み上げでは、実際の運営と乖離が生じて当然です。
現実的なモデル収益を設計するために必要なのは、自社の直営店で実際に発生している数字です。具体的には以下のような項目を直営データから積み上げます。
チェックポイント1:家賃の現実値は「売上比」で確認する
モデル収益に組み込む家賃は、想定物件の平均賃料ではなく、直営店で実際に発生している家賃の「売上に対する比率」で確認します。飲食業では家賃比率が10%を超えると収益が厳しくなるケースが多く、この水準を加盟候補エリアに当てはめて現実的な数字を出します。
✅ ポイント:直営と加盟店では物件取得の条件が異なることがある。直営実績の家賃比率を「加盟店が入る可能性のある物件」の想定で再計算すること。
チェックポイント2:人件費は「最小限配置」ではなく「実際の稼働人数」で積む
収益計画で最も甘くなりやすいのが人件費です。「理想的な配置で回れば最低○人」という計算ではなく、直営店で実際に動いているシフトと時給を使って積み上げます。人手不足が常態化している今、ギリギリの配置を前提にしたモデルは現実の運営に耐えられません。
✅ ポイント:令和8年度最低賃金1,177円(全国加重平均)を下限に、直営実績の時間単価を用いて再計算する。最低賃金のさらなる引き上げも見越した「余裕ある人件費」で組む。
チェックポイント3:食材原価は「実際の原価率」を使う
モデル上の原価率と実際の原価率のズレは、利益の見込み違いに直結します。直営店の月次データから、業態ごとの実原価率を計算し、それをモデル収益に反映します。
✅ ポイント:中小企業庁「2026年版中小企業白書」によると、原価を製品・サービス単位で把握している事業者は約4割にとどまる。直営段階から原価把握の精度を上げておくことが、FC化後のモデル精度に直結する。
✓ ここまでのポイント
- 人件費高騰は直営モデルでは固定費の塊として積み上がる構造的な問題であり、FC化による固定費分散が有効な対策になる。
- 加盟店が儲かるモデルを設計するには、家賃・人件費・原価の三項目を「実際の直営データ」で積み上げることが不可欠。机上の理想値で組んだ収益計画は加盟者の閉店リスクを高める。
- モデル収益の精度が低いと、加盟店の閉店が本部のブランド毀損につながる。「閉店しない本部」を作ることが、本部の長期存続に直結する。
ポイント3:省人化オペレーションの設計で、人件費構造ごと変える
FC本部化において、モデル収益の「数字を調整する」だけでは根本的な解決になりません。人件費高騰の時代に加盟店が利益を出し続けるためには、オペレーション自体を省人化・標準化することが必要です。
これはFC化の文脈で語られることが多いですが、実は直営段階でも取り組みが可能であり、むしろ直営で実証できていない省人化オペレーションをFC加盟店に求めることはできません。直営で仕組みを作り、それを「再現性のある型」としてマニュアル化して加盟店に展開することが、FC本部化の正しい順番です。
省人化オペレーションの核心は「誰がやっても同じ品質・同じコストで回る仕組み」を作ることです。これが整っていれば、最低賃金が上がっても、シフトの組み方や業務の分担を見直すことで収益を守りやすくなります。
FC本部化を見据えたマニュアルの選び方と運用の違いについても、別の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
「焼鳥居酒屋を経営していましたが、客単価が900円上がり、新メニュー開発の時間も確保できるようになりました。何より『うちは他と違う』を堂々と言えるようになったのが一番大きかったです。」
焼鳥居酒屋 オーナー様(50代・男性)
この方の変化は、単に価格を上げたことではありません。「うちは他と違う」という自信の根拠を言語化し、オペレーションと商品力に落とし込めたことが本質です。FC化においても、この「言語化された差別化」こそが加盟者に引き継ぐ最大の価値になります。人件費が高騰しても、他店が真似できない業態価値があれば、価格で戦わず利益を守ることができます。
「加盟店が儲かるか」を確かめる前に、本部化の適性を診断する
ここまで3つのポイントを解説してきましたが、FC化を検討するすべての飲食経営者様に「今すぐFC化を」と勧めているわけではありません。直営段階でのオペレーションの再現性、収益モデルの精度、そして本部を運営するための資本・人材の準備状況によっては、「まだ早い」とお伝えすることもあります。
大切なのは、FC化の適性を客観的に診断したうえで、順序立てて進めることです。フランチャイズ本部を立ち上げる手順を段階ごとに整理した解説も参考にしながら、まず自社の現状を整理してみてください。
チェックポイント4:直営で「再現性」は実証されているか
1店舗だけが突出して好調なケースでは、FC化しても再現性が担保できません。複数の直営店で同じ業態・オペレーションが機能していることが、FC展開の最低条件です。
✅ ポイント:直営2〜3店舗で同水準の収益が出ているかどうかを確認する。業態の再現性が「運に頼らず仕組みで説明できる状態」になっているかが判断基準。
チェックポイント5:加盟者にとっての収益の「現実の下限」は設計されているか
モデル収益は「平均値」だけではなく、「想定より売上が低い月でも加盟者が資金ショートしないか」という下限シナリオが必要です。飲食業では開業後の立ち上がり期に売上が安定しないことも多く、その期間を乗り越えられる収益構造になっているかを確認します。
✅ ポイント:直営の最低月売上データをもとに、「加盟者が最悪のケースでも固定費を賄えるか」を検証する。この下限設計こそが、加盟店の閉店率を下げる最大の対策になる。
なお、直営5店舗以上で本部化に踏み切った事例と判断の背景を解説した記事も、FC化の適性を見極める際の参考になります。
まとめ:人件費高騰の時代こそ、「固定費を織り込んだ誠実なモデル」が本部の基盤になる
人件費高騰という外部環境の変化は、直営モデルを運営するすべての飲食経営者様にとって避けられない課題です。そしてこの課題への向き合い方が、FC本部化の設計にそのまま反映されます。
机上の理想値ではなく、直営の実データを使って家賃・人件費を正直に積み上げたモデル収益を設計すること。その現実的な数字のうえで、加盟者が本当に利益を出せる業態価値と省人化オペレーションを整備すること。この2点が整ってはじめて、「加盟店が閉店しない、揉めない本部」が成立します。
増益繁盛クラブでは、飲食業に特化した21年・833件超の支援経験をもとに、こうした現実的なモデル収益の設計から、法定開示書面・契約書の整備、SV体制の構築まで、一気通貫で伴走しています。「FC化を考え始めたが、何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、まずはお気軽にご相談ください。