「加盟店が本当に儲かるのか、自分でも確信が持てない」——FC化を検討している飲食経営者様から、こういった本音をよく聞きます。
たとえばこんな状況です。
・試算表を作ってみたが、売上の数字が楽観的すぎる気がしてならない
・ロイヤリティを引いた後の手残りが加盟者にとって十分かどうか判断できない
・開示資料に「モデル収益」を載せなければならないが、どの数字を根拠にすればいいか分からない
・同業者のFCが加盟店の閉店続きで評判を落としているのを見て、二の足を踏んでいる
これらは「FC化の意欲がない」ことではなく、「加盟店が閉店するリスクを、経営者として正面から受け止めている」証拠だと思います。その真剣さは、本部を長続きさせるうえで間違いなく強みになります。
ただ、確信が持てないまま加盟店の募集を進めてしまうと、後から取り返しのつかない問題が起きます。今回は「なぜモデル収益が机上の数字になってしまうのか」という構造的な原因から出発し、設計段階でやり直すべき具体的なポイントを整理します。
📋 この記事でわかること
- 加盟店のモデル収益が「机上の数字」になってしまう根本的な原因
- 飲食の二大固定費(家賃・人件費)を正しく織り込む方法
- 直営データをもとに現実的なモデル収益を設計する具体的な手順
- 設計段階でやり直すべき3つのチェックポイント
こんな方におすすめ
- ✅ FC化を検討しているが、加盟店が本当に儲かるか確信が持てない飲食経営者様
- ✅ モデル収益の試算を作ったものの、数字の根拠に自信がない方
- ✅ 加盟店の閉店リスクを下げた「誠実な本部設計」をしたい方
- ✅ 直営の利益構造をFCモデルに転用する方法を知りたい方
- ✅ 法定開示書面に記載するモデル収益の作り方に迷っている方

なぜ「加盟店が儲かるモデル」を自信を持って示せないのか
本部が「加盟店が儲かるかどうか確信が持てない」と感じるとき、その多くは収益シミュレーションが売上から計算を始めていることに原因があります。
「このエリアで月商〇〇万円は見込める」という推計から出発し、原材料費(FL比率)を引いて、ロイヤリティを引いて……という計算です。数字の上では利益が残るように見えますが、そこには飲食業の経営を本当に圧迫している「二大固定費」が薄くしか織り込まれていないことがほとんどです。
その二大固定費とは、家賃と人件費です。
家賃は加盟者が物件を契約した瞬間から固定的に発生します。売上が予測を下回っても、家賃は一円も変わりません。人件費も同様で、開業間もない時期は客数が安定せず、それでもスタッフの給与は毎月支払わなければなりません。この二つが「想定より高くついた」だけで、試算上の利益はあっという間に消えます。
飲食業での加盟店が苦しくなる場面の多くは、売上予測の誤りよりも、固定費の見積もりが甘かったことに起因しています。本部が「うまくいくはずだった」と思っていても、加盟者は毎月の家賃と人件費の前に立ち往生しているのです。
「モデル収益は、成功した月の数字で作ってはいけません。加盟者が生き残れるかどうかを判断する数字ですから、厳しめの固定費を前提に作るべきです。そこをクリアできるかどうかを確認してから、初めて募集を始める順番です。」
ハワード・ジョイマン(飲食店FC本部構築支援コンサルタント/中小企業診断士)
「机上の数字」に陥る3つの設計ミス
収益モデルが現実から乖離する原因は、設計のどこかに「希望的観測」が混ざり込んでいる点にあります。具体的には次の3つに集約されます。
チェックポイント1:家賃の上限ラインを設定していない
「月商の10%以内」など、加盟者が出店する物件の家賃上限を明示していない本部は多いです。物件ごとに家賃が異なることを「加盟者の判断に任せる」と解釈した結果、収益モデルを圧迫する物件で開業してしまう事例が起きます。
モデル収益はあくまで「この条件の物件であれば成立する」という前提で設計するものです。家賃の上限ラインを本部が明確に設け、その条件を加盟審査でも確認することが必要です。
✅ ポイント:モデル収益の試算に使った家賃の金額と、それが月商に対して何%かを明示する。家賃が上限を超えそうな物件には出店を認めないルールを定める。
チェックポイント2:人件費を「理想のシフト」で計算している
開業直後は採用がうまくいかず、オーナー自身が長時間入ることがあります。このとき、オーナーの労働を人件費としてカウントしないシミュレーションは危険です。オーナーの時給が「ゼロ」であるかのように計算すれば利益は出ているように見えますが、実態は自分の労働で赤字を埋めているだけです。
また、最低賃金は毎年上昇しています。令和8年度の最低賃金は全国加重平均1,177円(前年度から56円引上げ、厚生労働省令和8年度地域別最低賃金の答申)に達しており、人件費は開業後も右肩上がりで上昇するという前提で設計することが不可欠です。
✅ ポイント:人件費はオーナーの労働時間にも時給を設定して試算する。最低賃金の上昇余地も加味した「やや厳しめ」の数字を採用する。
チェックポイント3:直営店の「良い月」のデータしか使っていない
直営データを参照する際、業績が良い時期の数字を基準にしてしまうと、モデル収益は現実より高く設定されます。特に開業から数年が経過した直営店のデータは、常連客やリピーターが積み上がった後の数字であり、開業直後の加盟店とは状況が全く異なります。
加盟店の「1年目の現実」に近いデータを意識的に選び、開業後半年〜1年間の売上推移を織り込んだ収益設計が必要です。
✅ ポイント:直営店の月次データを最低24ヶ月分用意し、開業初年度に近い条件の時期のデータを参照する。売上の「平均値」より「下位25%の月」を確認して耐性を確かめる。
✓ ここまでのポイント
- モデル収益が机上の数字になる最大の原因は、家賃・人件費という固定費の過小評価にある
- 家賃の上限設定・人件費の現実的な見積もり・直営の「悪い月」のデータ活用の3点が設計の急所
- 開業初年度の加盟店が生き残れる水準かどうかを基準に設計することが本部の責任
直営データをもとに現実的なモデル収益を設計する手順
では、具体的にどう設計を進めるか。骨格となる手順を整理します。
モデル収益設計 STEP 1
直営店の月次損益を「科目別」に最低24ヶ月分洗い出す
売上・食材費・人件費・家賃・水光熱費・その他経費・減価償却を月ごとに並べます。ここで重要なのは、「管理している」データではなく「実際にかかった」数字を使うことです。オーナーの役員報酬や、交通費などの細かな経費も含めて実態を把握します。
⚠️ よくある失敗:直営のオーナーが現場に入りきりで役員報酬を低く抑えているケースがある。この場合、人件費が実態より低く見えるため、加盟者が同じオペレーションをスタッフで回したときの人件費を別途試算する必要がある。
モデル収益設計 STEP 2
固定費の「加盟店モデル」を別途設計する
直営店の家賃と加盟店が出店する予定の家賃帯は異なることがほとんどです。加盟店の想定家賃・人件費・ロイヤリティを加算した「加盟店固有の固定費合計」を作り直します。ロイヤリティを固定費として計上することで、「ロイヤリティを払った後でも黒字になるか」を明確に確認できます。
⚠️ よくある失敗:ロイヤリティを「売上に連動するから固定費ではない」として後回しにし、固定費の合計を低く見せてしまう。ロイヤリティは必ず先に計上して、残余利益を確認する。
モデル収益設計 STEP 3
「損益分岐売上高」を計算し、エリアの商圏で現実的かを検証する
固定費合計÷(1-変動費率)で損益分岐売上高が計算できます。この数字を達成するために、エリアの人口・競合・客単価・想定回転数から「月何組・何円の客単価が必要か」に落とし込みます。この検証を飛ばして「売上は〇〇万円を想定」とするだけでは、なぜその売上が達成できるのかの根拠がなく、加盟者が判断できません。
⚠️ よくある失敗:首都圏や都市部の直営データをそのまま地方の加盟店に当てはめてしまう。エリアの人口規模・商業集積・賃料水準は直営と異なることを前提に、エリアごとに検証し直す。
なお、収益モデルの設計段階で飲食本部が実際に修正した数字の事例も参考にしていただくと、どの数字がどう変わったかをより具体的にイメージできます。
「加盟者に誠実」であることが、結果として本部を守る
モデル収益を厳しめに設計すると、「加盟希望者に魅力的に見えないのでは」と心配される経営者様がいます。しかし実際には逆です。
根拠が薄い「夢のある数字」を見せて加盟させた結果、開業後に経営が苦しくなると、加盟者の不満は必ず本部に向かいます。「あの数字は何だったのか」という話になったとき、本部は法的リスクも含めた深刻な問題を抱えることになります。
実際、フランチャイズ本部が訴訟リスクを抱える背景には、開示情報と現実のギャップが大きく関わっています。加盟者が「聞いていた話と違う」と感じたとき、本部への信頼は一気に崩れます。
一方、固定費を織り込んだ厳しめのモデル収益を誠実に開示し、「これをクリアできる方でなければお断りすることもある」という姿勢を示した本部は、加盟者から信頼されます。「あの本部は本気で加盟者の成功を考えている」という評判は、次の加盟者を連れてくる最も強力な販促になります。
「加盟者を集めることが目的ではなく、加盟者が黒字で営業を続けることが目的です。閉店が増えれば本部のブランドは傷つく。だからこそ、モデル収益の設計は本部がいちばん真剣に向き合うべき仕事です。」
ハワード・ジョイマン(飲食店FC本部構築支援コンサルタント/中小企業診断士)
また、ロイヤリティ設定にも同じ考え方が必要です。ロイヤリティの値上げ時期に加盟店との関係が崩れた事例は、設計段階での「加盟者の手残り」の検討が不十分だったことに端を発しているケースがほとんどです。
現実的なモデルが「仕組みの安定」を生む
誠実なモデル収益設計は、加盟者の閉店リスクを下げるだけでなく、本部の運営そのものを安定させます。加盟者の経営が黒字であれば、ロイヤリティの支払いも安定し、本部の収益も安定します。加盟者が次々と入れ替わる「回転ドア型FC」は、見かけ上の店舗数は増えても、本部の収益は安定しません。
私がコンサルティングで大切にしているのは、「加盟店が儲かってこそ、本部は続く」という一点です。これは理念ではなく、数字の話です。
たとえば別業種の事例ですが、経営の仕組みを整えたことで売上変動に振り回されなくなった、という変化は業態を問わず共通しています。
「次回予約率が40%から65%に上がり、売上の変動に振り回されなくなりました。標準化したことでアシスタントの育成も早まりました。」
スタイリスト3人サロン経営者(男性・30代)
この変化の本質は、「仕組みが機能したから数字が安定した」という点にあります。飲食FCのモデル収益設計も同じです。固定費を正しく織り込んだ現実的な収益モデルを設計し、それを満たす加盟者だけを選ぶ仕組みを整えることで、加盟店の閉店率は下がり、本部の収益も安定します。
まとめ:設計のやり直しが「長続きする本部」の起点になる
FC化を検討する飲食経営者様にとって、モデル収益の設計は「加盟者への約束」を形にする作業です。その数字が机上のものであれば、加盟者はその約束を果たせずに閉店し、本部への不信が残ります。
設計段階でやり直すべきポイントは明確です。家賃・人件費という二大固定費を現実の水準で織り込み、直営店の「良い月」ではなく開業初年度に近い数字を参照し、損益分岐売上高をエリアの商圏で検証する。この3つを丁寧に行うだけで、モデル収益の信頼性は大きく変わります。
「今の収益シミュレーションで加盟者が本当に生き残れるか」——その問いに自信を持って答えられる本部だけが、長く続けられます。FC化の前に、ぜひ一度モデル収益の設計を見直す機会を作ってみてください。
増益繁盛クラブでは、直営3〜10店舗規模の飲食経営者様を対象に、実在の直営データをもとにした現実的なモデル収益設計から、FC本部構築の全体設計まで、伴走型でサポートしています。「まだ早い」と判断した場合は正直にお伝えすることも、私たちのスタイルです。モデル収益の設計に不安を感じている方は、まずはお気軽にご相談ください。