多店舗展開している美容室の経営者に聞いた調査では、「クレーム対応のやり方が店舗によって違う」と感じているオーナーが7割以上いるというデータがあります。これは決して他人事ではありません。スタッフが3人いれば、対応の「くせ」は3通り生まれます。店舗が2つあれば、それは6通りになる。経営者が現場に立っていない分、その差はじわじわと広がっていきます。
今回は、静岡市清水区を拠点に21年・833件以上の店舗経営支援を行ってきた経営コンサルタント、ハワードジョイマンへのインタビューという形で、多店舗経営者が直面する「クレーム対応の属人化」問題と、本部とスタッフが迷わないルール設計の考え方をお伝えします。
こんな方におすすめ
- ✅ 2店舗以上を経営しており、クレーム対応が店舗によってバラバラだと感じている方
- ✅ スタッフに任せた結果、トラブルが大きくなった経験がある方
- ✅ 本部としてのルールを作りたいが、何から手をつければいいか分からない方
- ✅ 値上げや新メニュー導入時にクレームが増えることを不安に感じている方
- ✅ 自分が現場を離れても組織が安定して回る仕組みを作りたい方
📋 この記事でわかること
- 多店舗でクレーム対応が統一されない本当の原因
- 本部とスタッフが「迷わない」ためのルール設計の手順
- クレームを減らすための予防策と仕組みの考え方
- 小規模多店舗でも今日から使えるマニュアル化のコツ

「クレームが起きると、何が一番困りますか?」——ジョイマンへの問いかけから始まった
——最初に聞かせてください。多店舗経営の美容室オーナーから、クレームに関してどんな相談が多いですか?
ジョイマン:圧倒的に多いのは「スタッフがどこまで謝っていいか分からなくて、問題が長引いた」というパターンですね。あと「店長が対応を決めてしまって、本部に事後報告が来た」というケースも多い。どちらも、ルールがないから起きることです。
——クレーム対応が統一されないことで、どんな実害が出るんでしょう?
ジョイマン:一番大きいのは、お客さんとの信頼が店舗ごとに違ってしまうことです。A店では丁寧に対応してもらえたのに、B店では冷たかった——そういう体験が積み重なると、ブランドそのものへの信頼が揺らぎます。多店舗展開しているのに、むしろ1店舗より評判が悪くなる、という逆転現象が起きてしまう。
「クレームは怖いものではなくて、仕組みのどこに穴があるかを教えてくれるサインです。大切なのは、その穴をふさぐルールを作ること。感情的な謝罪や場当たり対応ではなく、再現性のある対処が組織を守ります。」
ハワードジョイマン(繁盛店グループ総代表/店舗利益最大化コンサルタント)
クレーム対応が「属人化」する本当の原因
——なぜ、多くの美容室でクレーム対応が属人化してしまうんでしょうか?
ジョイマン:理由はシンプルで、「クレームが来てから考える」からです。マニュアルがない。あったとしても「誠実に対応する」「お客様の気持ちに寄り添う」みたいな抽象的な言葉しか書かれていない。それじゃスタッフは何もできません。
——現場のスタッフとしては、どう動いていいか分からないと。
ジョイマン:そうです。特に若いスタッフや入って間もないスタッフにとっては、クレームへの対応は恐怖そのものですよ。だから「とにかく謝る」か「店長を呼ぶ」かの二択になる。でも店長も明確な基準を持っていなければ、感情に任せた対応になる。これが積み重なると、スタッフの離職にもつながる。
多店舗を経営している段階のオーナーなら特に、自分が現場にいないときに問題が起きます。そのときに「社長、どうしましょう?」という電話がかかってくる仕組みは、もう機能していないんです。
❌ よくあるパターン:感情・経験・勘による個人対応
- スタッフによって謝る深さが違う
- 返金・無料対応の判断が場当たり的
- 本部への報告が遅れ、炎上リスクが高まる
- 同じクレームが繰り返されるが改善策が共有されない
✅ 推奨アプローチ:ルールと判断フローを事前に設計する
- 「どのクレームはスタッフが対応し、どこから上に上げるか」を明文化する
- 返金・無料施術の可否ラインをあらかじめ決めておく
- クレーム発生後24時間以内に本部へ報告するフローを作る
- 月1回のクレーム共有ミーティングで全店舗にフィードバックする
✓ ここまでのポイント
- クレーム対応が店舗ごとにバラつく最大の原因は「事前ルールの欠如」にある
- 抽象的なマニュアルはスタッフを迷わせるだけで、「判断できる基準」が必要
- 属人化したクレーム対応は、ブランド信頼の毀損とスタッフ離職につながるリスクがある
本部とスタッフが迷わない「クレームルール」の設計手順
——では実際に、どうやってルールを設計すればいいか教えてください。
ジョイマン:まず、クレームを「種類別に分類する」ことから始めます。美容室のクレームは大きく分けると、①施術品質(イメージと違う・ダメージが出た)、②接客態度、③予約・待ち時間、④料金・説明不足の4種類に整理できます。この4つそれぞれに、「一次対応はここまで」「これ以上は本部に上げる」という判断ラインを作る。
クレームルール設計 STEP 1
クレームの種類を分類・定義する
過去に起きたクレームを書き出し、上記4分類に振り分けます。まだ記録がない場合は、ジョイマンが支援してきた美容室150件・全833件の事例から頻出パターンをそのまま参考にすることができます。自店に当てはめて考えるだけでOKです。
⚠️ よくある失敗:「うちはそんなクレームは来ない」と思い込んで、軽微なご不満を記録していないケース。記録されていないクレームは改善できません。
クレームルール設計 STEP 2
スタッフが「一人で対処できる範囲」を明文化する
例えば、「施術後すぐのご不満で、当日中に再施術で解決できる場合はスタッフが対応」「翌日以降のご連絡や返金が発生する可能性がある場合は店長対応」「SNSへの投稿や弁護士への相談が絡む可能性がある場合は本部対応」というように、レベルを3段階で定義します。スタッフに「ここまでは自分で動いていい」という許可を明確に与えることが大切です。
⚠️ よくある失敗:「とにかく店長を呼ぶ」というルールにしてしまい、店長が疲弊する。一次対応の質も落ちる。
クレームルール設計 STEP 3
返金・無料対応の「金額ライン」を先に決めておく
「いくらまでは現場で判断できるか」を金額で決めておくと、スタッフは動けます。例えば「5,000円以内のサービス提供は現場裁量」「それを超える返金・補償は本部判断」など、数字で定義することでスタッフの迷いがなくなります。
⚠️ よくある失敗:「お客さんが怒っているから」という感情的な理由で過剰なサービスをしてしまい、後から本部が困る。
クレームルール設計 STEP 4
報告フォーマットを作り、24時間以内の報告を義務化する
「いつ・どんなクレームが・どう解決したか」を書く簡単なシートを用意します。LINEグループや共有ノートアプリで十分です。本部はそれを月に一度見返してパターンを把握し、全店舗にフィードバックする。このサイクルを回すことで、同じクレームが繰り返されなくなります。
⚠️ よくある失敗:報告書の項目が多すぎてスタッフが面倒になり、記録が途絶える。最初は「日時・クレーム内容・対応結果」の3項目だけで十分です。
クレームを「事前に減らす」視点——予防が最善のルール
——ルールを作るのと同時に、そもそもクレームを減らすことも大切ですよね。
ジョイマン:そこが核心です。クレーム対応のルールを整備することも大切ですが、もっと大切なのは「クレームが起きにくい仕組みを先に作ること」です。美容室でのクレームの多くは、「お客さんの期待値とのズレ」から来ています。
——具体的にどういうことですか?
ジョイマン:例えばカラーメニュー一つとっても、「どんな仕上がりになるか」を事前にしっかり確認せずに進めると、後で「こんなはずじゃなかった」が起きる。これはスタッフの技術の問題ではなく、コミュニケーション設計の問題です。カウンセリングシートや見本写真の活用で、期待値を合わせるだけでクレームは大幅に減ります。
もう一つ大事なのは、POPやメニューの表記です。「お客さんが読んで、受ける前から内容を理解できるか」を基準にメニューを作り直すと、説明不足からくるクレームがなくなっていく。これは客単価アップにも直結する話で、私がずっとお伝えしてきた「ご利益型メニュー名」の考え方と同じです。
「クレームが多い店舗は、実はお客さんとのコミュニケーション設計がうまくいっていないことが多い。逆に言えば、コミュニケーションを仕組みで整えると、クレームも減り、リピートも増える。二兎を追って二兎を得る、数少ない改善です。」
ハワードジョイマン(繁盛店グループ総代表・中小企業診断士)
チェックポイント①:カウンセリングで期待値を合わせているか
施術前に「どんな仕上がりをご希望ですか」「ご自宅でのお手入れはどのくらいの時間をかけられますか」などを確認するフローを全スタッフが実践できているか確認してください。
✅ ポイント:カウンセリングシートを1枚作り、全店舗・全スタッフが同じ項目を確認できるようにする。属人化している部分をシートで統一する。
チェックポイント②:値上げ・新メニュー導入時に事前説明できているか
価格改定や新メニューの追加は、クレームが増えやすいタイミングです。「なぜ変わったのか」「お客さんにとってどんなメリットがあるのか」を事前にPOPやニュースレターで伝えているかを確認してください。
✅ ポイント:変化を「黙って実施」するのではなく、説明する仕組みを作っておくことがクレーム予防の最善策。LINEやハガキDMで事前告知するだけで、受け取り方が大きく変わります。
チェックポイント③:クレームの記録と共有が仕組みになっているか
同じクレームを複数のスタッフや複数の店舗が繰り返しているケースは、記録と共有が機能していないサインです。月1回でいいので、全スタッフが集まる(またはオンラインで集まる)クレーム振り返りの時間を作れているか確認してください。
✅ ポイント:「失敗を責める場」ではなく「仕組みの穴を探す場」として設定することが大切。スタッフが報告しやすい文化を作ることが先決です。
「ジョイマン先生の指導を受けてから、クレームが来たときに慌てなくなりました。どこまで自分で動いていいかが明確になったので、スタッフとしてもお客さんに向き合いやすくなった、とスタッフが言ってくれました。」
40代・美容室オーナー
まとめ——「迷わない組織」が、お客さんとの信頼をつくる
多店舗でクレーム対応を統一するために必要なのは、「もっと丁寧に対応しなさい」という指示ではありません。「どこまで自分で動いていいか」「何を報告すればいいか」「どのラインで上に上げるか」という判断の基準を、事前に設計することです。
ジョイマンがこれまで833件以上の店舗を支援してきて感じるのは、クレームで揺れる組織は「基準がない」のではなく「基準を作る時間を後回しにしてきた」だけ、ということです。経営者が現場から抜け出し、仕組みを設計することに時間を使うことが、組織の安定と利益の両方につながります。
もし今、あなたのお店で「クレーム対応が店舗によってバラバラ」「スタッフが何をどこまでやっていいか分かっていない」と感じているなら、まずは「クレームの種類の分類」と「スタッフの対応範囲の明文化」から始めてみてください。それだけで、現場の空気は変わります。
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