梅雨が明けた直後のある夏の夕方、静岡市内で経営コンサルティングをしている私(ハワードジョイマン)は、一本の電話を受けました。相手は60代の中華料理店のオーナーさん。電話口の声は明らかに疲れ切っていました。
「ジョイマンさん、もう限界かもしれません。仕込みも発注も接客も全部自分でやっとる。スタッフに任せようとしても、どこから手をつければいいのか分からなくて……」
その言葉を聞いた瞬間、かつての自分の姿が浮かびました。私自身も、独立した直後は「全部自分でやらないといけない」と信じ込んでいた時期があります。結果として全財産を失い、一度は破産を経験した。あの頃の自分と、この社長が重なったんです。
今回の記事では、「自分にしかできない仕事」という思い込みがどうやって生まれるのか、そしてその思い込みをどう手放すのかを、私の経験とクライアントの事例を交えながら書いていきます。
📋 この記事でわかること
- 「自分にしかできない」という思い込みが生まれる本当の理由
- 仕事を塊で見ているうちは永遠に手放せない、という構造の正体
- 工程分解と6つの行動整理で、任せられる作業を切り出す具体的な手順
- 中華料理店オーナー(60代)が属人依存を脱して月商15%増を達成した実例
こんな方におすすめ
- ✅ 「自分がやった方が早い」と思って一人で抱え込んでいる飲食店・美容室オーナー
- ✅ スタッフに任せたいのに、どこから手をつければいいか分からない方
- ✅ 毎日バタバタしているのに、手元にお金も時間も残らないと感じている方
- ✅ 現場を離れて「社長の仕事」に集中したいと思っているオーナー
- ✅ 学びを実践に変えられず、同じ場所で足踏みしていると感じている方

「全部自分でやる」は、なぜ当たり前になってしまうのか
多くの飲食店・美容室オーナーは、もともと職人です。料理が好き、技術が好き、だから独立した。その情熱は本物だし、誇るべきものです。
でも、店が軌道に乗りかけた頃から、少しずつ状況が変わってきます。仕込みの段取り、スタッフの指導、発注管理、SNSの更新、売上の集計……。気づけば「技術者」から「なんでも屋」になっている。
それでも「自分でやった方が早い」と思い続けるのには、理由があります。仕事を「塊」で見ているからです。
たとえば「ランチの仕込み」という作業。これを一つの塊として見ると、「自分しか全体像を把握していない」「任せたらクオリティが落ちる」という結論にしかなりません。でも実際には、ランチの仕込みは10も20も工程に分かれています。食材を洗う、切る、下茹でする、タレを仕込む、分量を計る……。これだけ分解すれば、スタッフに任せられる工程は必ずどこかにあるはずです。
「自分にしかできない仕事」なんて、実はほとんどない。あるのは「分解していない仕事」だけです。
私自身が気づいた、思い込みの正体
私が独立して最初の数年間、初年度の年商は269万円で、翌年はさらに落ち込みました。全財産を失い、「なぜこんなことになったのか」を必死に考えました。
そのとき行き着いたのが、「今の現実は100%自分が作り出している」という視点です。誰かのせいでも、環境のせいでもない。自分の行動と時間の使い方が、今の現実を作っていた。
当時の私がやっていたことを振り返ると、成果に直結しない作業に一日の大半を使っていました。「これは自分がやらないといけない」と思い込んで、丸抱えしていた。でも本当は、任せられる工程が山ほどあった。それに気づいていなかっただけです。
あの頃の自分に言いたいのは、「仕事を塊で見るな」ということ。一つひとつの工程に分解して、その中の「自分でなければできない部分」だけに力を注ぐ。それだけで、時間の使い方はがらりと変わります。
「仕事を手放せない人は、任せる準備が足りないのではなく、仕事を分解する習慣がないだけです。分解した瞬間、必ず任せられる工程が見つかります」
ハワードジョイマン(繁盛店研究所 代表・中小企業診断士)
✓ ここまでのポイント
- 「自分にしかできない」という思い込みは、仕事を工程分解せずに「塊」で見ていることから生まれる
- 分解すれば、必ず任せられる工程が見つかる。「自分にしかできない部分」は思ったより少ない
- 今の現実は自分の行動が作り出している。行動を変えれば、現実は変わる
工程分解と6つの行動整理——手放すための具体的な手順
では実際に、どう手放すのか。私がクライアントに使っている「6つの行動整理」という考え方を紹介します。
まず最初にやることは、1週間の自分の行動をすべて書き出すことです。頭の中にある「なんとなくやっていること」を全部紙に出す。このステップを飛ばすと何も変わりません。
行動整理 STEP 1
すべての行動を書き出す
月曜から日曜まで、自分がやっていること・やっていた仕事を思い出せる限り書き出します。「発注の電話をした」「SNSに投稿した」「スタッフのシフトを組んだ」——大小関係なく全部です。
⚠️ よくある失敗:「大事な仕事だけ書こう」と最初からフィルタリングしてしまう。全部書かないと、隠れた時間泥棒が見えてきません。
行動整理 STEP 2
「儲かる仕事」と「そうでない仕事」に仕分ける
書き出したリストを見て、「これは売上・利益に直結しているか」という基準で仕分けします。直結しない作業が想像以上に多いことに気づくはずです。
⚠️ よくある失敗:「どれも必要だから全部大事」と思ってしまう。そう思っている限り、何も変わりません。
行動整理 STEP 3
工程に分解して「任せられる部分」を切り出す
直結しない作業の中から一つ選び、工程に分解します。たとえば「発注業務」なら、「在庫確認→数量の判断→発注先への連絡→確認の記録」と分けられます。この中で「数量の判断」は自分がやるとして、残りはスタッフに渡せます。
⚠️ よくある失敗:「最初から全部任せよう」と一気に進める。小さな一工程から始めることが、信頼と成功体験を積み上げる鍵です。
STEP 4以降は、任せた仕事の基準を言語化(手順書化)し、渡して、確認して、改善していく流れになります。この繰り返しで、少しずつ「自分がいなくても回る部分」が増えていきます。
60代の中華料理店オーナーが変わった話
最初の電話から数ヶ月後、あの中華料理店のオーナーさんがどうなったか。
最初に取り組んだのは、仕入れ業務の見直しでした。複数の業者に分けていた発注を整理・集約し、スタッフが対応できる形に手順書化した。これだけで、オーナー自身の時間が週に3時間削減されました。
その3時間を何に使ったか。新しいランチメニューの設計と、常連客へのDM発送。どちらも以前は「忙しくてできなかった」ことです。でも実際は、忙しかったのではなく、任せられる仕事を手放せていなかっただけでした。
「仕入れを集約してスタッフに任せたら、週に何時間も浮きました。以前はずっと焦っていたんですが、今は次の手を考える時間ができて、前向きな気持ちで計画が立てられるようになりました」
中華料理店オーナー(男性・60代)
結果として月商は15%増で安定。数字が上がったことより、「焦りが前向きな計画に変わった」という言葉が、私にはずっと残っています。
この方が特別だったわけではありません。「仕事を塊で見るのをやめて、工程に分解した」。ただそれだけです。でもその一歩が、これほどの変化を生んだ。
まとめ:「手放す」のは、逃げることじゃない
「自分でやった方が早い」という言葉の裏には、「任せることへの不安」があります。でも正直に言うと、その不安は仕事を分解していないから生まれているものです。
分解すれば見える。見えれば渡せる。渡せれば、自分にしかできない「儲かるアイデアと仕組みづくり」に時間が使える。それが社長の本当の仕事です。
繁盛店研究所では21年間、飲食店・美容室オーナーの「時間の捻出」と「仕組み化」を支援してきました。全国500名の経営者が参加する会員制コミュニティ「増益繁盛クラブ」でも、この工程分解の考え方を実践しているメンバーが次々と変化を起こしています。
一人でいっぱいいっぱいになっている社長に、まず試してほしいのが、今日から1週間、自分の行動を全部書き出すこと。それだけで、見える景色が変わります。
「手放すことは、諦めることじゃない。自分が本当にやるべき仕事に、ようやく向き合えるということです」
ハワードジョイマン(繁盛店研究所 代表・中小企業診断士)
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