月次決算で経営状況を把握する簡単な方法
「決算は年1回だけ」では手遅れです
美容室を経営している中田さん(仮名)から、
こんな相談を受けました。
「先生、うちは年1回の決算で税理士さんに
『今年は利益が少なかったですね』って言われて初めて状況を知るんです。
でも、それじゃ改善のタイミングを逃してしまいますよね。
毎月の経営状況を簡単に把握する方法はないでしょうか?
難しい帳簿は分からないので、簡単な方法があれば…」
多くの美容室経営者が同じ状況です。
年1回の決算では経営改善が間に合いません。
月次で経営状況を把握することで、問題を早期発見し、
迅速に対策を打つことができます。
中田さんは、月次決算の簡単な方法を覚えて、
毎月の経営判断が的確になり、年間利益を30%向上させました。
今日は、その具体的な方法をお教えします。
なぜ月次決算が重要なのか?
年次決算だけの3つの問題
1. 問題発見が遅すぎる
- 1年後に「赤字でした」では手遅れ
- 改善のタイミングを完全に逃す
- 資金繰り悪化に気づけない
- 競合対策が後手に回る
2. 季節変動を見逃す
- 美容室は季節による売上変動が大きい
- 好調・不調の要因が分からない
- 来年の計画を立てられない
- 在庫や人員の調整ができない
3. 改善効果を確認できない
- 施策の効果が1年後まで分からない
- 何が成功要因か特定できない
- PDCAサイクルが回らない
- 継続的改善につながらない
月次決算の5つのメリット
1. 早期の問題発見 月次で異常値をキャッチし、迅速に対応
2. タイムリーな意思決定 リアルタイムの数字で経営判断
3. 季節対応の精密化 月別トレンドの把握と対策
4. 改善効果の即座確認 施策効果の早期検証と調整
5. 資金繰りの安定化 キャッシュフローの月次管理
美容室向け簡単月次決算の基本
月次決算で見るべき5つの数字
1. 月間売上高
当月売上:○○万円
前月比:+○%/-○%
前年同月比:+○%/-○%
年間目標との差:+○万円/-○万円
2. 月間売上総利益(粗利)
売上総利益 = 売上高 - 材料費
当月粗利:○○万円
粗利率:○○%
前月比:+○%/-○%
目標粗利率:90%以上
3. 月間営業利益
営業利益 = 売上総利益 - 経費
当月営業利益:○○万円
営業利益率:○○%
前月比:+○万円/-○万円
目標営業利益率:20%以上
4. 月間キャッシュフロー
キャッシュフロー = 入金 - 出金
当月CF:+○万円/-○万円
月末現金残高:○○万円
安全水準:月商の2-3ヶ月分
5. 主要KPI(重要指標)
客数:○○人(前月比+○人/-○人)
客単価:○○円(前月比+○円/-○円)
材料費率:○○%(目標:10-15%)
人件費率:○○%(目標:30-40%)
月次決算書の簡単フォーマット
美容室向け月次P/L(損益計算書)
【○年○月度 月次損益計算書】
■売上高
売上高:1,000,000円
■売上原価
材料費:120,000円
売上総利益:880,000円(88.0%)
■販売費及び一般管理費
人件費:350,000円(35.0%)
地代家賃:120,000円(12.0%)
水道光熱費:60,000円(6.0%)
広告宣伝費:50,000円(5.0%)
通信費:15,000円(1.5%)
消耗品費:30,000円(3.0%)
保険料:25,000円(2.5%)
その他経費:80,000円(8.0%)
経費合計:730,000円(73.0%)
■営業利益:150,000円(15.0%)
■営業外損益
支払利息:10,000円(1.0%)
■経常利益:140,000円(14.0%)
5分でできる月次決算のやり方
ステップ1:売上データの集計(1分)
必要な情報
□ レジの月間売上合計
□ 客数カウント
□ メニュー別売上(可能であれば)
□ 新規・既存客の内訳(可能であれば)
簡単集計方法
【POSレジ使用の場合】
月次レポート機能で自動集計
【手動管理の場合】
日計表の月間合計を計算
電卓で1ヶ月分を足し算
記録例
4月売上:1,200,000円
4月客数:240人
平均客単価:5,000円
ステップ2:材料費の把握(1分)
材料費計算の簡単な方法
【正確な方法】
当月購入額 + 期首在庫 - 期末在庫
【簡易な方法】
当月購入額をそのまま材料費とする
(小規模サロンなら十分実用的)
材料費の記録
4月材料費:150,000円
材料費率:12.5%(150,000÷1,200,000)
目標:10-15% → OK
ステップ3:主要経費の確認(2分)
固定費の確認
□ 家賃:120,000円
□ 人件費:400,000円
□ 水道光熱費:80,000円
□ 通信費:20,000円
□ 保険料:30,000円
変動費の確認
□ 広告費:60,000円
□ 消耗品費:40,000円
□ その他:50,000円
経費合計
4月経費合計:800,000円
経費率:66.7%(800,000÷1,200,000)
ステップ4:利益の計算(30秒)
営業利益の計算
売上高:1,200,000円
材料費:150,000円
その他経費:800,000円
営業利益:250,000円
営業利益率:20.8%
前月比:+30,000円
ステップ5:前月・目標との比較(30秒)
比較分析
【前月との比較】
売上:+50,000円(+4.3%)
利益:+30,000円(+13.6%)
利益率:+1.8ポイント
【年間目標との比較】
年間目標:1,440万円(月平均120万円)
4月実績:120万円 → 目標達成
【累計進捗】
1-4月累計:4,600,000円
年間目標比:32.0%(順調)
月次決算で見つける経営改善のヒント
売上分析で見つけるヒント
売上トレンド分析
【3ヶ月推移】
2月:110万円
3月:115万円
4月:120万円
→ 右肩上がりの成長トレンド
→ 現在の施策は効果的
→ この調子で継続
客数・客単価の内訳分析
【客数減少・客単価上昇パターン】
客数:240人→220人(△20人)
客単価:5,000円→5,450円(+450円)
→ 高単価客は維持、低単価客が離脱
→ 価格政策の見直しが必要
→ バランス型メニューの検討
利益率分析で見つけるヒント
材料費率の変動
【材料費率上昇の場合】
前月:10.5% → 当月:12.8%
考えられる原因:
・高額材料の使用増加
・在庫管理の甘さ
・ロス・廃棄の増加
・仕入れ価格の上昇
→ 使用量管理の強化が必要
人件費率の変動
【人件費率上昇の場合】
前月:32% → 当月:35%
考えられる原因:
・売上減少(分母縮小)
・残業時間の増加
・新人研修コストの発生
→ 効率化または売上向上が必要
キャッシュフロー分析で見つけるヒント
現金残高の推移
【現金減少傾向の場合】
1月末:200万円
2月末:180万円
3月末:160万円
4月末:150万円
→ 毎月20万円ずつ減少
→ 7-8ヶ月で資金ショート
→ 早急な資金繰り改善が必要
実際の月次決算活用事例
Kサロンの月次決算導入事例
導入前の状況
・年1回の決算のみ
・経営状況の把握が1年遅れ
・問題発見が遅く対策が後手
・資金繰りに不安
・改善効果が不明
月次決算導入後の変化
1ヶ月目で発見した問題
【材料費率の異常】
目標:12% → 実際:18%
【原因調査】
・大容量商品の期限切れ廃棄
・使用量の管理不足
・高額商品への偏重
【即座の対策】
・在庫管理システム導入
・使用量標準化
・商品選択の見直し
【翌月効果】
材料費率:18% → 13%(5ポイント改善)
3ヶ月目で発見した機会
【客単価の季節変動】
1月:4,800円
2月:4,600円(△200円)
3月:5,200円(+400円)
【分析結果】
3月は卒業・入学シーズンで需要増
単価向上の好機を発見
【対策】
4月に新生活キャンペーン実施
5月の母の日キャンペーン企画
【結果】
4月客単価:5,400円(+200円向上)
6ヶ月後の総合効果
【利益改善】
月平均営業利益:12万円 → 18万円
営業利益率:12% → 18%(6ポイント向上)
【資金繰り改善】
現金残高:常に3ヶ月分以上を維持
銀行借入:200万円 → 100万円(返済進行)
【経営判断力向上】
問題発見:平均1ヶ月以内
対策実行:発見から1週間以内
効果確認:翌月には結果判明
一人美容室での活用例
Lサロン(一人経営)の事例
【特徴】
・個人事業主
・簡単な記録で十分
・Excel管理
【月次決算の内容】
売上・経費・利益の3項目のみ
所要時間:月末5分
【効果】
・季節変動の把握
・適正な休暇計画
・設備投資のタイミング判断
・税金の事前準備
月次決算を継続するコツ
システム化による効率化
おすすめツール
【初心者向け】
・Excel簡易テンプレート
・Google スプレッドシート
・無料会計アプリ
【中級者向け】
・クラウド会計ソフト
・POSレジ連動システム
・専用会計ソフト
【上級者向け】
・ERP統合システム
・BI(ビジネスインテリジェンス)
・カスタム分析ツール
Excelテンプレートの活用
【基本項目】
・日付
・売上高
・材料費
・主要経費項目
・営業利益
・前月比
・目標比
【自動計算設定】
・利益率の自動計算
・前月比の自動計算
・グラフの自動更新
習慣化のポイント
月次決算の実施タイミング
【推奨スケジュール】
月末最終日:数字の確定
翌月1-3日:月次決算実施
翌月第1週:分析・改善計画
翌月第2週:改善施策開始
継続のコツ
【簡単から始める】
最初は売上・利益の2項目のみ
慣れてから詳細項目を追加
【ルーティン化】
毎月同じ日に実施
同じ時間に実施
同じ手順で実施
【成果の実感】
改善効果を数字で確認
前年同月との比較で成長実感
目標達成の喜びを味わう
税理士との上手な連携方法
月次決算データの活用
税理士への情報提供
【提供すべき情報】
・月次損益計算書
・主要KPIの推移
・気になる変動の要因
・改善施策の内容と効果
【期待できる効果】
・より精度の高いアドバイス
・タイムリーな税務対策
・経営改善提案
・年次決算の効率化
税理士との月次ミーティング
【議題例】
・当月実績の評価
・問題点の相談
・改善施策の検討
・来月の重点課題
・税務上の注意点
【所要時間】
30分-1時間程度
【頻度】
月1回(推奨)
四半期1回(最低限)
今すぐ始められる月次決算
今週やること
月曜日
- [ ] 過去3ヶ月の売上データを集計
- [ ] 基本的な経費項目をリストアップ
火曜日
- [ ] 簡単な月次決算フォーマットを作成
- [ ] 必要な情報源を確認
水曜日
- [ ] 4月分の月次決算を試作
- [ ] 問題点や改善点を洗い出し
木曜日
- [ ] フォーマットを調整・完成
- [ ] 継続実施のスケジュール決定
金曜日
- [ ] スタッフへの説明・協力依頼
- [ ] 来月からの本格運用開始
1ヶ月後の目標
月次決算の習慣化
□ 毎月5日以内に月次決算完了
□ 前月比・目標比の分析実施
□ 問題点の早期発見
□ 改善施策の迅速実行
□ 経営判断力の向上実感
よくある質問と解決法
Q: 「正確な数字じゃないと意味がないのでは?」
A: 完璧な精度より継続することが重要です。
80%の精度でも毎月やることで、トレンドや変化を把握できます。
Q: 「税理士がやってくれるから不要では?」
A: 税理士は記録と申告の専門家。
経営判断は経営者の仕事です。
月次決算は経営改善のツールとして活用しましょう。
Q: 「忙しくて時間がありません…」
A: 慣れれば5分で完了します。
むしろ月次決算により効率的な経営ができ、
結果的に時間節約になります。
Q: 「数字が悪い時は見たくありません…」
A: 悪い数字こそ宝の山。早期発見により致命的な事態を防げます。
逆に、良い数字は自信とモチベーションにつながります。
まとめ:月次決算で経営力を劇的向上
月次決算は、美容室経営の「健康診断」です。
毎月の実施により、経営の異常を早期発見し、
迅速な対策を打つことができます。
月次決算の5つの効果
- 早期問題発見:1年後ではなく1ヶ月後に状況把握
- 迅速な意思決定:リアルタイムデータによる経営判断
- 季節対応力:月別傾向の把握と先手対策
- 改善効果確認:施策効果の早期検証
- 資金繰り安定:キャッシュフローの月次管理
成功する月次決算の3つのポイント
- シンプルに始める:最初は基本項目だけで十分
- 継続を最優先:完璧さより習慣化を重視
- 改善に活用:数字を見るだけでなく行動に移す
月次決算マスターへの道
第1段階:基本項目の月次把握(1-3ヶ月目)
第2段階:分析・改善の習慣化(4-6ヶ月目)
第3段階:戦略的活用(7-12ヶ月目)
年1回の決算で「手遅れ」になる前に、
月次決算で「先手」を打ちましょう。
今日からできること
- 過去3ヶ月の売上・利益を計算してみる
- 簡単な月次決算フォーマットを作成する
- 来月から月次決算を開始する
毎月5分の投資で、経営力が劇的に向上します。
半年後には「月次決算なしでは経営できない」と実感しているはずです!
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