損益計算書の見方、美容室経営者が知るべきポイント

損益計算書の見方、美容室経営者が知るべきポイント

目次

損益計算書、税理士に任せっきりになってませんか?

美容室を経営している佐藤さん(仮名)から、こんな相談を受けました。

「先生、税理士さんから
毎月『損益計算書』っていう書類をもらうんですが、
正直よく分からなくて…
売上と利益だけ見て
『今月は良かった』『悪かった』程度しか分からないんです。
でも、もっと深く読み取れるようになったら
経営に役立ちそうですよね?」

多くの美容室経営者が同じ状況です。
損益計算書を正しく読めれば、
経営の問題点と改善のヒントが全て見えてくるんです。

佐藤さんは損益計算書の読み方をマスターして、
隠れていた無駄なコストを発見し、
年間200万円のコスト削減を実現しました。

今日は、美容室経営者が知るべき損益計算書の見方をお教えします。

損益計算書って何?基本を理解しよう

損益計算書の基本構造

損益計算書とは?
一定期間(通常1ヶ月または1年)の経営成績を表す書類
「いくら売上があって、いくら費用がかかって、
結果いくら利益が出たか」を示す

美容室の損益計算書の基本構造

売上高(売上)
│
├─ 売上原価(材料費)
│   └→ 売上総利益(粗利益)
│
├─ 販売費及び一般管理費(経費)
│   ├─ 人件費
│   ├─ 地代家賃
│   ├─ 水道光熱費
│   ├─ 広告宣伝費
│   ├─ 通信費
│   └─ その他経費
│   └→ 営業利益
│
├─ 営業外収益・費用
│   └→ 経常利益
│
└─ 特別損益
    └→ 当期純利益

利益の5段階を理解する

1段階目:売上総利益(粗利益)

売上総利益 = 売上高 - 売上原価

美容室では:
売上総利益 = 売上高 - 材料費

【意味】
材料費を除いた利益
サービス業である美容室では90-95%が目標

2段階目:営業利益

営業利益 = 売上総利益 - 販売費及び一般管理費

【意味】
本業で稼いだ利益
美容室経営の実力を表す最重要指標

3段階目:経常利益

経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用

【意味】
借入金利などを含めた経常的な利益
実際の経営状況に近い利益

4段階目:税引前当期純利益

税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益 - 特別損失

【意味】
税金を払う前の最終利益
臨時的な損益も含めた総合的な結果

5段階目:当期純利益

当期純利益 = 税引前当期純利益 - 法人税等

【意味】
最終的に手元に残る利益
配当や内部留保の原資

美容室経営者が注目すべき重要ポイント

ポイント1:売上総利益率(粗利率)

計算方法

売上総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高 × 100

例:
売上高:100万円
材料費:12万円
売上総利益:88万円
売上総利益率:88%

美容室の理想的な売上総利益率

【優秀レベル】
92-95%

【標準レベル】
88-92%

【要改善レベル】
88%未満

売上総利益率が低い原因と対策

【原因】
・材料費の使いすぎ
・高額材料への偏重
・在庫管理の甘さ
・適正価格設定の不備

【対策】
・使用量の標準化
・材料選択の見直し
・在庫管理システム導入
・メニュー価格の適正化

ポイント2:人件費率

人件費に含まれる項目

・給与
・賞与
・法定福利費(社会保険料など)
・福利厚生費
・退職金
・教育研修費

計算方法

人件費率 = 人件費 ÷ 売上高 × 100

例:
売上高:100万円
人件費:35万円
人件費率:35%

美容室の適正人件費率

【一人美容室】
0-10%(オーナー給与除く)

【小規模サロン(2-3名)】
25-35%

【中規模サロン(4-6名)】
30-40%

【大規模サロン(7名以上)】
35-45%

人件費率改善のポイント

【生産性向上】
・技術力アップによる客単価向上
・施術時間短縮による回転率向上
・予約システム最適化

【適正配置】
・売上に応じた人員配置
・繁閑に合わせたシフト調整
・教育による多能工化

ポイント3:地代家賃率

計算方法

地代家賃率 = 地代家賃 ÷ 売上高 × 100

例:
売上高:100万円
家賃:12万円
地代家賃率:12%

美容室の適正家賃率

【理想レベル】
8-12%

【許容レベル】
12-15%

【要改善レベル】
15%以上

家賃率が高い場合の対策

【短期対策】
・家賃交渉
・売上向上施策
・サブリース検討

【中長期対策】
・移転検討
・業態変更
・複数店舗展開

ポイント4:水道光熱費率

計算方法

水道光熱費率 = 水道光熱費 ÷ 売上高 × 100

例:
売上高:100万円
水道光熱費:8万円
水道光熱費率:8%

美容室の適正水道光熱費率

【理想レベル】
3-6%

【許容レベル】
6-8%

【要改善レベル】
8%以上

水道光熱費削減のポイント

【電気代】
・LED照明への交換
・省エネ機器の導入
・待機電力のカット

【ガス代】
・給湯器の効率化
・適正温度設定
・使用時間の最適化

【水道代】
・節水機器の導入
・使用量の管理
・漏水チェック

ポイント5:営業利益率

計算方法

営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100

例:
売上高:100万円
営業利益:25万円
営業利益率:25%

美容室の目標営業利益率

【優秀レベル】
25%以上

【標準レベル】
15-25%

【要改善レベル】
15%未満

営業利益率向上の戦略

【売上向上】
・客数増加
・客単価アップ
・リピート率向上

【コスト削減】
・材料費最適化
・固定費圧縮
・効率化推進

損益計算書から読み取る経営の健康状態

健全な美容室の損益計算書例

月売上100万円サロンの理想的な構造

売上高:1,000,000円(100%)

【売上原価】
材料費:100,000円(10%)
売上総利益:900,000円(90%)

【販売費及び一般管理費】
人件費:300,000円(30%)
地代家賃:100,000円(10%)
水道光熱費:50,000円(5%)
広告宣伝費:40,000円(4%)
通信費:15,000円(1.5%)
消耗品費:25,000円(2.5%)
保険料:20,000円(2%)
その他:100,000円(10%)
販管費合計:650,000円(65%)

営業利益:250,000円(25%)

営業外費用:10,000円(1%)
経常利益:240,000円(24%)

当期純利益:180,000円(18%)

問題のある損益計算書の特徴

要注意パターン1:材料費過多型

売上高:1,000,000円(100%)
材料費:200,000円(20%)← 高すぎる
売上総利益:800,000円(80%)

【問題点】
・材料の無駄遣い
・高額材料への偏重
・在庫管理の甘さ

【改善策】
・使用量の標準化
・材料選択の見直し
・在庫管理強化

要注意パターン2:固定費肥大型

売上高:1,000,000円(100%)
家賃:180,000円(18%)← 高すぎる
人件費:400,000円(40%)← 高すぎる

【問題点】
・売上に対する固定費の割合が高い
・効率的な運営ができていない

【改善策】
・家賃交渉または移転検討
・人員配置の最適化
・売上向上施策

要注意パターン3:利益率低下型

営業利益:50,000円(5%)← 低すぎる

【問題点】
・全体的なコスト管理の甘さ
・競争力の低下
・価格設定の問題

【改善策】
・全コストの見直し
・付加価値向上
・効率化推進

月次損益分析の実践方法

月次チェックのポイント

基本的なチェック項目

□ 売上は目標達成しているか?
□ 売上総利益率は適正か?
□ 人件費率は適正範囲内か?
□ 固定費に異常な増加はないか?
□ 営業利益率は目標水準か?

前月・前年同月との比較

【売上高】
前月比:+○%/-○%
前年同月比:+○%/-○%

【各種利益率】
売上総利益率:前月比+○%/-○%
営業利益率:前月比+○%/-○%

【主要経費率】
人件費率:前月比+○%/-○%
家賃率:前月比+○%/-○%

改善すべき項目の優先順位

1位:売上総利益率の改善

影響度:大
難易度:中
即効性:高

【改善方法】
・材料費削減
・メニュー価格見直し
・材料使用量最適化

2位:人件費率の最適化

影響度:大
難易度:高
即効性:中

【改善方法】
・生産性向上
・適正人員配置
・教育による効率化

3位:固定費の圧縮

影響度:中
難易度:中
即効性:中

【改善方法】
・家賃交渉
・光熱費削減
・不要契約の見直し

実際の改善事例

Fサロンの損益改善事例

改善前の損益計算書(月売上80万円)

売上高:800,000円(100%)

売上原価:160,000円(20%)← 高い
売上総利益:640,000円(80%)

販売費及び一般管理費:
人件費:280,000円(35%)
地代家賃:140,000円(17.5%)← 高い
水道光熱費:80,000円(10%)← 高い
その他:200,000円(25%)
販管費合計:700,000円(87.5%)

営業利益:-60,000円(-7.5%)← 赤字

問題点の分析

1. 材料費率20%(業界標準の倍)
2. 家賃率17.5%(適正の1.5倍)
3. 水道光熱費率10%(適正の2倍)
4. 結果として赤字経営

実施した改善策

【材料費削減】
・使用量の標準化
・大容量商品への切り替え
・在庫管理システム導入
→ 材料費率:20%→12%

【固定費削減】
・家賃交渉により月2万円削減
・LED照明導入で電気代30%削減
・給湯システム効率化
→ 固定費:月4.5万円削減

【売上向上】
・リピート率向上施策
・客単価アップメニュー
→ 月売上:80万円→90万円

改善後の損益計算書(月売上90万円)

売上高:900,000円(100%)

売上原価:108,000円(12%)
売上総利益:792,000円(88%)

販売費及び一般管理費:
人件費:270,000円(30%)
地代家賃:120,000円(13.3%)
水道光熱費:54,000円(6%)
その他:180,000円(20%)
販管費合計:624,000円(69.3%)

営業利益:168,000円(18.7%)

改善効果

営業利益:-6万円→+16.8万円
改善額:月22.8万円(年間273.6万円)
利益率:-7.5%→18.7%

今すぐできる損益計算書活用法

今週やること

月曜日

  • [ ] 最新の損益計算書を入手
  • [ ] 基本的な構造を確認

火曜日

  • [ ] 各費用の売上比率を計算
  • [ ] 業界標準と比較

水曜日

  • [ ] 前月・前年同月と比較分析
  • [ ] 問題点を洗い出し

木曜日

  • [ ] 改善可能な項目を特定
  • [ ] 改善計画を策定

金曜日

  • [ ] 税理士と改善点を相談
  • [ ] 来月の目標を設定

損益計算書を使った月次ミーティング

スタッフとの情報共有

【共有する内容】
・今月の売上実績
・目標達成状況
・主要な課題
・来月の目標

【共有しない内容】
・詳細な給与情報
・個人情報に関わる項目
・機密性の高い財務情報

改善提案の募集

【スタッフからの提案例】
・材料の無駄削減アイデア
・効率化の提案
・売上向上のアイデア
・コスト削減の工夫

【提案採用時の報奨】
・改善効果の一部を還元
・表彰制度の実施
・ボーナス査定への反映

よくある質問と解決法

Q: 「損益計算書が複雑で理解できません…」

A: 最初は売上・材料費・人件費・家賃・営業利益の5項目だけ見ればOK。
徐々に詳細を理解していきましょう。

Q: 「税理士に任せておけば十分では?」

A: 税理士は記録と申告の専門家。
経営改善は経営者自身が行う必要があります。
損益計算書は改善のヒントの宝庫です。

Q: 「毎月チェックする必要がありますか?」

A: 月次チェックが理想的です。
問題の早期発見と迅速な対策により、大きな損失を防げます。

Q: 「業界平均と違う場合はどうすれば?」

A: 業界平均は参考程度に。
重要なのは自店の過去データとの比較と、継続的な改善です。

まとめ:損益計算書で経営力を高める

損益計算書は経営の成績表です。
正しく読み取れば、経営改善のヒントが満載されています。

損益計算書活用の5つのメリット

  1. 経営状況の正確な把握:数字で現状を客観視
  2. 問題点の早期発見:赤字化する前に対策
  3. 改善効果の確認:施策の成果を数値で確認
  4. 目標設定の根拠:現実的な目標設定が可能
  5. 金融機関との関係:融資時の信頼性向上

美容室経営者が注目すべき5つの指標

  1. 売上総利益率:90%以上を目標
  2. 人件費率:規模に応じて25-45%
  3. 地代家賃率:8-15%が適正範囲
  4. 水道光熱費率:3-8%が目標
  5. 営業利益率:15%以上を目指す

損益計算書マスターへの道

  • 毎月必ずチェックする習慣
  • 前月・前年との比較分析
  • 業界標準との比較検討
  • 問題点の早期発見と対策
  • 継続的な改善活動

損益計算書を「難しい書類」から
「経営改善のパートナー」に変えることで、
あなたの美容室は確実に成長します。

今日からできること

  1. 最新の損益計算書を手に入れる
  2. 売上総利益率を計算してみる
  3. 主要経費の売上比率をチェックする

数字が語る真実に耳を傾け、
データに基づく経営改善を始めましょう。
半年後には損益計算書を見るのが楽しみになっているはずです!

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この記事を書いた人

コピーライター/店舗利益最大化コンサルタント
中小企業診断士(経済産業省登録番号 402345)
絵本作家(構想・シナリオ担当)

・有限会社繁盛店研究所 代表取締役
・株式会社繁盛店研究出版 代表取締役
・繁盛店グループ総代表

1975年 静岡県清水市生まれ(現在:静岡市清水区)
自営業の家に生まれ、親戚一同も会社経営をしていることから、小さい頃より受付台にたち、商売を学ぶ。

大学入学と同時にお笑い芸人としての活動を経験。活動中は、九州松早グループの運営するファミリーマートのCMに出演。急性膵炎による父の急死により大学卒業後、清水市役所に奉職。

市役所在職中に中小企業診断士の取得を始める。昼間は市役所で働き、夜は診断士の受験勉強。そして、週末は現場経験を積むため無給でイタリアンレストランでの現場修行を経験。6年間の試験勉強を経て、中小企業診断士資格を取得。

取得を契機に7年目で市役所退職。退職後、有限会社繁盛店研究所(旧:有限会社マーケット・クリエーション)を設立。

お笑い芸人として活動していた経験から、小売店や飲食店、美容室、整体院の客数増加や店内販売活動に、お笑い芸人の思考法や行動スタイル、漫才の手法などを取り入れることで、クライアントの業績が着実に向上していく。

こうした実績を積み上がるに従い、信奉者が増える。独自の繁盛店メソッド「笑人の繁盛術」の考え方で、コンサルティングを行う。

発行するメールマガジンは、専門用語を使わない分かりやすい内容から、メルマガ読者からの業績アップ報告が多く、読者総数は1万人を超える。

会員制コンサルティングサポート「増益繁盛クラブ」を運営。人気テレビ番組ガイアの夜明けにも取り上げられるなど注目を浴びる。これまで北は北海道から南は沖縄、そして、アメリカからも参加する方がいるなど、多くの方が実践を続けている。

コンサルタントが購読する「企業診断」(同友館)からもコンサルタントに向けた連載を依頼されるなど、コンサルタントのコンサルタントとしても活躍中。

どんなに仕事が忙しくとも毎月1回の先祖のお墓参りを大事にしている。家族を愛するマーケッター。

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