余計なものを捨てる勇気を持つマインドセット
なぜ「やめる」ことが「始める」ことより難しいのか?
ラーメン店を経営するFさんは、開店から5年で70種類ものメニューを作り上げました。
「お客様の要望に応えたい」「他店に負けたくない」
そんな想いで、醤油、味噌、塩、つけ麺、チャーハン、餃子、唐揚げ、サラダ…と次々にメニューを増やしていきました。
しかし、気がつくと:
- 仕込み時間:1日4時間
 - 材料管理:冷蔵庫はパンパン
 - スタッフ教育:新人が覚えられない
 - 利益率:どんどん悪化
 
「忙しいのに、なぜか儲からない…」
そんなFさんが変わったのは、勇気を持って「捨てる決断」をした時でした。
人はなぜ「捨てられない」のか?
理由1:「もったいない」という感情
美容室のGオーナーは、5年前に導入したヘッドスパメニューをやめられずにいました。
ヘッドスパの現状
- 月間利用客:3人
 - 売上:18,000円
 - 利益:6,000円
 - 必要時間:1人1時間
 
「せっかく機械を買ったのに…」 「スタッフが研修で覚えたのに…」 「お客様を裏切ることになるのでは…」
しかし、冷静に計算してみると:
ヘッドスパをやめて、その時間でカットをした場合
- 3時間で追加できるカット客:6人
 - 売上:18,000円(同じ)
 - 利益:15,000円(2.5倍)
 
「もったいない」という感情が、実は9,000円の損失を毎月生み出していたのです。
理由2:「お客様に申し訳ない」という罪悪感
居酒屋のHマスターは、平日限定の「昼定食メニュー」を続けていました。
昼定食の現状
- 1日平均:5食
 - 売上:2,500円
 - 利益:500円
 - 準備・片付け時間:2時間
 
「お昼に来てくれるお客様もいるし…」
しかし、その2時間を夜の仕込みに使えば:
- 夜の営業がスムーズになる
 - 料理の品質が上がる
 - スタッフの残業が減る
 - 結果的に夜の売上・利益が向上
 
実は、昼定食をやめることで、夜に来るお客様により良いサービスができるようになったのです。
理由3:「競合に負ける」という恐怖
エステサロンのIオーナーは、近所の競合店が新メニューを始めるたびに、同じメニューを追加していました。
結果
- メニュー数:40種類
 - スタッフの技術習得:中途半端
 - 機材費:毎月の維持費が重い負担
 - お客様の選択:逆に迷って決められない
 
実は、メニューを絞った競合店の方が「専門性が高い」として評価を上げていました。
「捨てる勇気」を持つための3つの視点
視点1:時間は有限だと認識する
1日24時間、1年365日は絶対に変わりません。
あれもこれもと手を広げることは、一つ一つの質を下げることと同じです。
質問:あなたの店の「看板メニュー」は何ですか?
もし即答できないなら、メニューが多すぎる可能性があります。
視点2:「選択と集中」の威力を知る
成功している店の共通点:得意分野に特化している
例:回転寿司チェーンの戦略
- 一般的な寿司屋:握り、ちらし、刺身定食、うどん、茶碗蒸し…
 - 回転寿司:寿司のみに特化
 - 結果:圧倒的な効率とコストパフォーマンス
 
例:牛角の戦略
- 一般的な居酒屋:焼肉、海鮮、和食、中華…
 - 牛角:焼肉に特化
 - 結果:焼肉業界でのブランド確立
 
視点3:「捨てる」は「得る」である
何かをやめることで、新しいものが手に入ります。
ラーメン店Fさんの場合
やめたもの(20メニュー)
- チャーハン系:5種類
 - サイドメニュー:10種類
 - 期間限定メニュー:5種類
 
得られたもの
- 仕込み時間:4時間→2時間(2時間短縮)
 - 材料費:30万円→20万円(10万円削減)
 - スタッフ教育:簡単で質が向上
 - 看板メニューの品質向上:リピート率20%アップ
 
「捨てる勇気」実践の5ステップ
ステップ1:現状を数字で把握する
まず、すべてのメニュー・サービスについて以下を記録してください。
記録項目
- 月間利用回数
 - 売上
 - 利益
 - 必要時間
 - 準備・片付け時間
 
ステップ2:「損益分岐点」を設定する
判断基準の例
- 月間利用回数が10回未満
 - 時間あたり利益が1,000円未満
 - 他のメニューの足を引っ張っている
 
ステップ3:段階的に実験する
いきなり完全にやめるのが怖い場合は、段階的に減らしてみましょう。
実験例:美容室の場合
- Week1-2:ヘッドスパの受付を「要予約」にする
 - Week3-4:曜日限定にする
 - Week5-6:完全停止を試す
 - 各段階で売上・利益・お客様の反応を確認
 
ステップ4:スタッフ・お客様への説明を準備する
スタッフへの説明例 「より良いサービスを提供するため、得意分野に集中することにしました。その分、メインメニューの品質向上に時間をかけ、お客様満足度を高めていきます。」
お客様への説明例 「この度、より専門性の高いサービスを提供するため、メニューを厳選いたします。その分、看板メニューの品質をさらに向上させ、皆様により喜んでいただけるよう努めてまいります。」
ステップ5:「捨てた効果」を実感する
やめた後の変化を記録し、効果を実感することで「捨てる勇気」が身につきます。
効果の例
- 作業時間の短縮
 - ストレスの軽減
 - メインメニューの品質向上
 - スタッフの成長
 - お客様の満足度向上
 
実際に「捨てる勇気」で成功した事例
事例1:美容室の大胆な決断
美容室Jは、従来40種類のメニューを提供していました。
捨てたもの
- エクステンション(月2人利用)
 - 着付け(月1人利用)
 - ネイル(月5人利用)
 - ヘアセット単品(月3人利用)
 
残したもの
- カット
 - カラー
 - パーマ
 - トリートメント
 
結果(3ヶ月後)
- 売上:変化なし
 - 利益:30%向上
 - 労働時間:20%短縮
 - お客様満足度:向上(「専門性が高い」との評価)
 
事例2:居酒屋の選択と集中
居酒屋Kは、和洋中なんでもありの店でした。
捨てたもの
- 中華メニュー:15品
 - 洋食メニュー:10品
 - デザート:8品
 
残したもの
- 和食メニューに特化
 - 日本酒の品揃えを充実
 
結果(6ヶ月後)
- 「和食居酒屋」としてのブランド確立
 - 常連客の増加
 - 客単価:15%向上
 - 仕入れ効率:大幅改善
 
「捨てられない」人への処方箋
処方箋1:「失うもの」より「得るもの」に注目する
捨てることで失うものばかり考えがちですが、得られるものに目を向けましょう。
失うもの
- 売上の一部
 - 一部のお客様
 
得るもの
- 時間
 - 集中力
 - 品質向上
 - ストレス軽減
 - 専門性の評価
 
処方箋2:「完璧主義」をやめる
すべてのお客様のニーズに応える必要はありません。
大切なのは
- あなたの店の強みを活かせるお客様
 - 継続的に利用してくれるお客様
 - 適正な利益をもたらしてくれるお客様
 
処方箋3:「競合との差別化」として捉える
メニューを絞ることは、競合との差別化になります。
「何でもできる店」より「これが得意な店」の方が選ばれる時代です。
今すぐできる「捨てる勇気」チェックリスト
□ 月間利用回数10回未満のメニュー・サービスをリストアップする □ 時間あたり利益1,000円未満の業務を特定する □ 過去3ヶ月使っていない機材・設備を確認する □ スタッフが「面倒」と感じている作業を聞き出す □ お客様から「よくわからない」と言われるメニューを見直す
まとめ:引き算の経営で掛け算の成果
多くの経営者は「足し算」で売上を伸ばそうとします。
しかし、本当に成功している経営者は「引き算」の威力を知っています。
余計なものを捨てることで:
- 時間が生まれる
 - 集中力が高まる
 - 品質が向上する
 - 利益率が改善する
 - お客様の満足度が上がる
 
あなたも今日から「捨てる勇気」を持って、引き算の経営を始めてみませんか?
きっと、今まで見えなかった成功への道筋が見えてくるはずです。
次回予告 次の記事からは「1週間行動分析法」をスタートします。まずは「24時間×7日間の完全見える化手法」で、あなたの時間の使い方を丸裸にする方法をお伝えします。現状を知ることが、すべての改善の第一歩です。

			
			
			
			
			
			
			
			
			
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