判断基準を示してスタッフに権限移譲する技術

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目次

~「迷わない」スタッフを育てる明確なルール作り~

「スタッフがいちいち聞いてくるんです。自分で判断してくれればいいのに…」

でも実は、スタッフが自分で判断できないのは、あなたが「判断基準」を教えていないからかもしれません。今日は、スタッフが迷わず行動できる「判断基準の作り方」をお教えします。

なぜスタッフは「いちいち聞いてくる」のか?

スタッフの本音を理解する

多くの経営者は「なんでこんな簡単なことを聞いてくるの?」と思いがちです。でも、スタッフ側の気持ちを考えてみてください:

スタッフの不安:

  • 「間違った判断をして怒られたらどうしよう」
  • 「お客様に迷惑をかけてしまったらどうしよう」
  • 「どこまでが自分の判断範囲なのかわからない」
  • 「前に同じような時、店長は違う対応をしていた」

つまり、スタッフは「判断したくない」のではなく、 「判断基準がわからない」 のです。

「察してちゃん」経営の落とし穴

多くの経営者が無意識にやってしまうのが、この「察してちゃん」経営:

「普通に考えればわかるでしょ」「前にも説明したよね」「常識で判断して」

でも、あなたの「普通」「常識」は、スタッフには伝わっていません。10年の経験がある店長と、入社3ヶ月のスタッフでは、判断基準が全く違うのです。

効果的な判断基準作りの5つのステップ

ステップ1:「よく聞かれること」をリストアップ

まずは、スタッフからよく質問される内容を1週間記録してみましょう。

よくある質問例:

  • 「在庫がない時はどうしますか?」
  • 「お客様が怒っている時の対応は?」
  • 「予約が重複した時は?」
  • 「割引の適用基準は?」
  • 「返品・交換の対応は?」

ステップ2:3段階の権限レベルを設定

すべての判断を同じレベルで扱うのではなく、リスクや重要度に応じて段階分けします。

【レベル1】スタッフ判断OK

  • お客様への基本的な案内
  • 通常の商品説明
  • 簡単な要望への対応

【レベル2】リーダー・副店長判断

  • 商品の交換・返品
  • 特別な要望への対応
  • 軽微なクレーム対応

【レベル3】店長判断必須

  • 返金対応
  • 重大なクレーム
  • 価格変更や特別割引

ステップ3:具体的な判断基準を文章化

曖昧な表現ではなく、誰が読んでも同じ判断ができる基準を作ります。

悪い例: 「お客様が困っていたら、適切に対応する」

良い例:

【商品切れの場合の対応】
1. 類似商品を2つ以上提案する
2. 入荷予定日を確認して伝える
3. 予約受付が可能かを案内する
4. 代替案でも満足いただけない場合は店長に相談

ステップ4:判断の「理由」も説明する

ただルールを示すだけでなく、なぜその基準なのかも伝えることで、応用力が身につきます。

例:クレーム対応の基準

【なぜこの基準なのか】
・最初は謝罪から入る→お客様の気持ちを受け止めるため
・事実確認を丁寧に行う→誤解によるトラブルを防ぐため
・解決策は複数提示する→お客様に選択権を持っていただくため

ステップ5:実際の場面で練習する

ルールを作っただけでは身につきません。実際の場面を想定した練習が重要です。

ロールプレイング例:

  • あなたがお客様役、スタッフが対応役
  • 様々なパターンを演習
  • 判断に迷った時の対処も練習

具体的な判断基準の作成例

【飲食店】お客様対応の判断基準

料理に関するクレーム対応

【レベル1:スタッフ対応OK】
・「少し時間がかかっている」程度の待ち時間
→「申し訳ございません、もう少々お待ちください」
→進行状況を厨房に確認して報告

【レベル2:リーダー相談】
・「注文と違う料理が来た」
→即座にお詫び→正しい料理を準備開始→リーダーに報告

【レベル3:店長判断】
・「髪の毛が入っている」など衛生面の問題
→お詫び→料理をお下げ→即座に店長に連絡

会計・料金に関する判断基準

【スタッフ判断OK】
・ポイントカードの適用
・通常メニューの説明と料金案内
・お会計の基本操作

【リーダー判断】
・団体割引の適用
・ちょっとしたサービス(ドリンク1杯など)
・常連客への特別対応

【店長判断必須】
・返金対応
・大幅な割引
・料金に関するトラブル全般

【美容室】技術・サービスの判断基準

お客様からの技術的要望

【スタッフ対応OK】
・基本的なスタイルの相談
・シャンプー・ブローの希望
・予約時間の調整(30分以内)

【先輩スタッフ相談】
・難易度の高いカラーリング
・大幅なスタイルチェンジ
・アレルギーに関する相談

【店長判断必須】
・技術的なクレーム
・髪や頭皮のトラブル
・料金に関わる特別対応

権限移譲を成功させる「段階的」アプローチ

第1段階:観察期間(1週間)

新しい判断基準を渡したら、最初の1週間は「観察」に徹します。

やること:

  • スタッフの判断を見守る
  • 間違いがあっても即座に訂正しない
  • 後で一緒に振り返る

やってはいけないこと:

  • 「それ、基準と違うでしょ」と即座に指摘
  • スタッフの前でお客様に謝る
  • 基準を無視して店長が対応する

第2段階:フィードバック期間(2週間)

毎日の振り返り(5分)

  • 「今日はどんな判断をしましたか?」
  • 「基準通りに対応できましたか?」
  • 「迷ったことはありましたか?」

改善ポイントの共有

  • 良かった判断を具体的に褒める
  • 改善点は一緒に考える
  • 基準の修正が必要な場合は更新

第3段階:自立運営期間(1ヶ月〜)

月1回の見直し

  • 基準の有効性をチェック
  • 新しい問題への対応を追加
  • スタッフからの改善提案を聞く

よくある失敗パターンと対策

失敗パターン1:基準が曖昧すぎる

問題例: 「お客様の満足度を最優先に判断する」

改善例: 「お客様が不満を示された場合は、まず謝罪し、具体的な解決策を2つ以上提示する。解決策の実行には金額に応じて以下の権限で対応…」

失敗パターン2:例外処理ばかりする

問題: 基準を作ったのに、店長が「今回は特別」と例外対応を頻発

対策: 例外を作る場合は、その理由をスタッフに説明し、基準の見直しを検討

失敗パターン3:権限範囲が狭すぎる

問題: 何でもかんでも「店長判断」にしてしまう

対策: 小さなリスクは積極的にスタッフに任せる。失敗は学習の機会と考える

判断基準の「見える化」テクニック

1. ラミネート加工した基準表を作成

重要な判断基準は、A4用紙にまとめてラミネート加工し、レジ周りに設置します。

2. フローチャート形式で整理

複雑な判断は、フローチャートで視覚化すると理解しやすくなります。

お客様からクレーム
   ↓
まずは謝罪・傾聴
   ↓
内容を確認
   ↓
料理の問題? → YES → レベル2対応
   ↓ NO
会計の問題? → YES → レベル3対応
   ↓ NO
サービス改善で解決? → YES → レベル1対応

3. 「判断基準ノート」の活用

新しい事例が起きた時に、その都度ノートに記録し、基準をアップデートしていきます。

権限移譲成功の指標

1ヶ月後の変化

スタッフの変化: □ 迷いなく基本対応ができる □ 自分から「こう対応しました」と報告する □ お客様からの評価が向上する

あなたの変化: □ スタッフからの質問が明らかに減る □ 安心してお店を任せられる時間が増える □ より重要な業務に集中できる

6ヶ月後の目標

組織の変化: □ スタッフが新しいスタッフに基準を教える □ 基準の改善提案がスタッフから出る □ お客様満足度が向上する □ 売上・利益が安定または向上

実際の成功事例

カフェ「○○珈琲店」の事例

導入前の課題:

  • 1日平均15回の「店長への質問」
  • アルバイトが委縮して積極性がない
  • 店長が休むとサービスレベルが低下

判断基準導入後(3ヶ月):

  • 質問回数が1日3回に減少
  • アルバイトから改善提案が出るように
  • 店長不在日でも売上維持

店長のコメント: 「最初は基準作りが面倒でしたが、一度作ってしまえば楽になりました。スタッフも自信を持って対応できるようになり、お客様からの評価も上がっています」

今日から始められる3つのアクション

アクション1:質問記録を開始

今日から1週間、スタッフからの質問内容と回数を記録してください。

アクション2:最重要な基準を1つ決める

最も頻繁に聞かれる質問について、明日までに具体的な判断基準を作成してください。

アクション3:スタッフとの相談時間を設定

「みんながもっと自信を持って判断できるよう、基準を一緒に作りたい」と相談してください。

まとめ:明確な基準が生む安心と成長

判断基準の明確化は、スタッフとあなたの両方に安心をもたらします。

スタッフにとって:

  • 迷わずに行動できる安心感
  • 自分の判断に自信が持てる
  • 成長実感を得られる

あなたにとって:

  • 細かい判断から解放される
  • より重要な仕事に集中できる
  • 組織としての底上げを実現

今日から、スタッフが「迷わず判断できる」環境作りを始めませんか?明確な基準があれば、スタッフは必ず期待以上の成長を見せてくれます。

※本サイトに記載された店舗名と店主名は、個店情報のため仮名とさせていただいております。

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この記事を書いた人

コピーライター/店舗利益最大化コンサルタント
中小企業診断士(経済産業省登録番号 402345)
絵本作家(構想・シナリオ担当)

・有限会社繁盛店研究所 取締役
・株式会社繁盛店研究出版 代表取締役
・株式会社日本中央投資会 代表取締役
・繁盛店グループ総代表

1975年 静岡県清水市生まれ(現在:静岡市清水区)
自営業の家に生まれ、親戚一同も会社経営をしていることから、小さい頃より受付台にたち、商売を学ぶ。

大学入学と同時にお笑い芸人としての活動を経験。活動中は、九州松早グループの運営するファミリーマートのCMに出演。急性膵炎による父の急死により大学卒業後、清水市役所に奉職。

市役所在職中に中小企業診断士の取得を始める。昼間は市役所で働き、夜は診断士の受験勉強。そして、週末は現場経験を積むため無給でイタリアンレストランでの現場修行を経験。6年間の試験勉強を経て、中小企業診断士資格を取得。

取得を契機に7年目で市役所退職。退職後、有限会社繁盛店研究所(旧:有限会社マーケット・クリエーション)を設立。

お笑い芸人として活動していた経験から、小売店や飲食店、美容室、整体院の客数増加や店内販売活動に、お笑い芸人の思考法や行動スタイル、漫才の手法などを取り入れることで、クライアントの業績が着実に向上していく。

こうした実績を積み上がるに従い、信奉者が増える。独自の繁盛店メソッド「笑人の繁盛術」の考え方で、コンサルティングを行う。

発行するメールマガジンは、専門用語を使わない分かりやすい内容から、メルマガ読者からの業績アップ報告が多く、読者総数は1万人を超える。

会員制コンサルティングサポート「増益繁盛クラブ」を運営。人気テレビ番組ガイアの夜明けにも取り上げられるなど注目を浴びる。これまで北は北海道から南は沖縄、そして、アメリカからも参加する方がいるなど、多くの方が実践を続けている。

コンサルタントが購読する「企業診断」(同友館)からもコンサルタントに向けた連載を依頼されるなど、コンサルタントのコンサルタントとしても活躍中。

どんなに仕事が忙しくとも毎月1回の先祖のお墓参りを大事にしている。家族を愛するマーケッター。

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