スタッフの自主的な問題解決力を育てる指導法

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「社長、またあの件ですが…どうしたらいいでしょうか?」

毎日のように聞かれるこの質問。そのたびに手を止めて説明し、解決策を教える。でも翌週、また同じような問題で相談される…

「なんで自分で考えないんだろう?」そう思ったことはありませんか?

実は、スタッフが自分で考えないのは 「考える機会を奪われているから」 なのです。

今日は、スタッフが自主的に問題を解決できるようになる指導法をお教えします。この方法を身につければ、あなたへの質問は激減し、スタッフは頼もしい戦力に成長します。

目次

なぜスタッフは自分で考えないのか?

原因①:「答えを教えすぎる」指導

多くの経営者がやってしまう指導パターン:

スタッフ:「これ、どうしたらいいですか?」
経営者:「それは○○すればいいよ」
スタッフ:「分かりました」

【結果】
・スタッフは答えを覚えるだけ
・なぜその答えなのかを理解しない
・同じような問題でまた質問してくる

これでは、スタッフの思考力は全く育ちません。

原因②:「失敗を許さない」文化

失敗を恐れるあまり、スタッフは自分で判断することを避けるようになります:

【スタッフの心理】
「自分で判断して間違えたら怒られる」
「聞いておけば安全」
「責任を取りたくない」
「失敗するくらいなら指示待ちでいい」

原因③:「考える時間」を与えない

忙しい現場では、ついつい「早く答えを教えて次に進みたい」と思ってしまいます。でも、この「時間がないから教える」が、スタッフの成長機会を奪っているのです。

自主的問題解決力を育てる「5段階指導法」

第1段階:「考える時間」を与える

従来の指導

スタッフ:「これ、どうしたらいいですか?」
経営者:「それは○○すればいいよ」(即答)

改善した指導

スタッフ:「これ、どうしたらいいですか?」
経営者:「まず君はどう思う?2分考えてから聞かせて」
↓
(2分後)
スタッフ:「○○だと思うんですが...」
経営者:「その考えで正解。理由も言えるかな?」

ポイント

  • 即答せず、必ず考える時間を作る
  • 短時間でも自分の頭で考えさせる
  • 答えがあっていれば必ず褒める

第2段階:「なぜ?」で思考を深める

スタッフが答えを出したら、「なぜそう思ったの?」と質問します。

思考深化の質問例

【表面的理解から深い理解へ】
「なぜその方法がいいと思ったの?」
「他の方法は考えなかった?」
「もしそれがダメだったらどうする?」
「お客様はどう感じると思う?」
「同じことが明日起きたらどうする?」

実践例:レジでのトラブル対応

スタッフ:「レジが動かないんですが...」
経営者:「どうしたらいいと思う?」
スタッフ:「再起動してみます」
経営者:「いいね。なんで再起動がいいと思ったの?」
スタッフ:「前にパソコンが固まった時、再起動で直ったので」
経営者:「素晴らしい!経験を活かしてるね。じゃあ、もし再起動でもダメだったら?」
スタッフ:「う〜ん...業者に連絡でしょうか?」
経営者:「正解!その前にできることは?」
スタッフ:「電源コードの確認...とか?」
経営者:「完璧!今度から一人でできるね」

第3段階:「選択肢」を考えさせる

1つの答えではなく、複数の選択肢を考える習慣をつけさせます。

選択肢思考の育て方

【質問パターン】
「この問題の解決方法、いくつ思いつく?」
「AとBの方法があるけど、どっちがいいと思う?」
「お客様の立場だったら、どの対応がうれしい?」
「コストを考えたら、どの方法がベスト?」

実践例:お客様からのクレーム

状況:「料理が冷たい」とのクレーム

経営者:「どんな対応方法がある?思いつくだけ言ってみて」
スタッフ:「作り直し、電子レンジで温め直し、お詫びして割引...」
経営者:「すごい!3つも思いついた。それぞれのメリット・デメリットは?」
スタッフ:「作り直しは時間がかかるけど一番いい。温め直しは早いけど...」
経営者:「そこまで考えられれば、もう自分で判断できるね」

第4段階:「責任」も一緒に渡す

権限を与える時は、責任も一緒に渡します。

段階的権限移譲

【レベル1】1,000円以下の判断:自分で決めてOK
【レベル2】5,000円以下の判断:事後報告でOK  
【レベル3】10,000円以下の判断:事前相談→自分で判断
【レベル4】それ以上:一緒に考えて決める

責任を渡す時の伝え方

「この範囲は君に任せる。判断も結果も君の責任。
でも失敗しても大丈夫。失敗は学習のチャンス。
一緒に改善していこう」

第5段階:「成功体験」を積ませる

小さな成功体験を積み重ねることで、自信を育てます。

成功体験の作り方

【スモールステップ】
1. 確実にできそうな簡単な判断から任せる
2. 成功したら必ず褒める
3. 少しずつ難易度を上げる
4. 失敗しても責めずに一緒に改善
5. 成長を認めて新しい権限を与える

業種別「自主性育成」実践例

【居酒屋】新人からベテランまでの成長設計

新人スタッフ(入店1か月)の指導例

場面:お客様から「おすすめは?」と聞かれた

【従来の指導】
「人気メニューの○○をおすすめして」

【改善した指導】
経営者:「お客様におすすめを聞かれたらどうする?」
新人:「人気メニューを...?」
経営者:「それもいいね。他には?」
新人:「お客様の好みを聞く...?」
経営者:「素晴らしい!どうやって好みを聞く?」
新人:「辛いのは大丈夫ですか、とか...」
経営者:「完璧!今度から一人でできるね」

中堅スタッフ(6か月)の指導例

場面:大人数の予約でテーブル配置に悩んでいる

経営者:「12名の予約、どう配置する?」
中堅:「4人席×3つを繋げます」
経営者:「理由は?」
中堅:「会話しやすいし、料理も運びやすいです」
経営者:「いい判断だね。他の方法も考えてみる?」
中堅:「6人席×2つ...でも少し離れちゃいますね」
経営者:「そうだね。お客様にとってどっちがいいかな?」
中堅:「みんなで話せる方がいいので、最初の案で」
経営者:「OK、君の判断で進めて」

【美容室】技術者の判断力向上

技術的判断力の育成例

場面:お客様の髪質を見てカラー剤を選ぶ

経営者:「この髪質なら、どのカラー剤がいいと思う?」
スタッフ:「ダメージが気になるので、優しいタイプで...」
経営者:「いい着眼点。ダメージ以外に気をつけることは?」
スタッフ:「色の入り方...細い髪なので明るくなりやすい」
経営者:「そこまで考えられるなら、レベルは?」
スタッフ:「8レベルの予定でしたが、7レベルにします」
経営者:「完璧な判断!理由もお客様に説明してみて」

接客判断力の育成例

場面:予約時間に遅れそうなお客様から連絡

スタッフ:「○○様が30分遅れると連絡が...」
経営者:「どう対応する?」
スタッフ:「次のお客様もいるので...時間短縮して対応?」
経営者:「具体的には?」
スタッフ:「シャンプーを省略して、カットのみで」
経営者:「お客様はどう感じるかな?」
スタッフ:「急いでる感じが伝わって、申し訳ない気持ちに...」
経営者:「じゃあどうする?」
スタッフ:「正直に状況を説明して、選択肢を提示します」
経営者:「素晴らしい!お客様第一の判断だね」

【カフェ】オペレーション判断力の向上

繁忙時の判断力育成

場面:注文が集中してオペレーションが混乱

経営者:「今の状況、どう改善する?」
スタッフ:「注文を一時停止...?」
経営者:「お客様はどう感じる?」
スタッフ:「良くないですね...」
経営者:「他にできることは?」
スタッフ:「簡単なメニューだけ受付、とか...」
経営者:「いいアイデア!具体的には?」
スタッフ:「ドリンクのみ、調理時間の短いもののみ」
経営者:「完璧!じゃあお客様への説明は?」
スタッフ:「混雑のため、こちらのメニューでお願いします、と」
経営者:「よし、やってみよう!」

指導効果を高める「環境づくり」

環境①:「失敗OK」の文化醸成

失敗を学習機会に変える言葉

【禁止ワード】
「なんでこんなミスを...」
「前にも言ったでしょ」
「もっと注意して」

【推奨ワード】
「いい経験になったね」
「次はどうする?」
「何を学んだ?」
「失敗は成長のチャンス」

環境②:「考える時間」の確保

時間確保の工夫

【忙しい時】
「今は忙しいから、30分後に一緒に考えよう」

【即答を求められた時】
「大事なことだから、少し考える時間をもらえる?」

【緊急時以外】
「答えを教えるのは簡単だけど、君が考える方が価値がある」

環境③:「成長」の見える化

成長記録の方法

【スキルマップ】
・現在できること
・挑戦中のこと
・次の目標

【成長日記】
・今日学んだこと
・自分で判断できたこと
・次に挑戦したいこと

【評価シート】
・自主的判断の回数
・判断の正確性
・考える深さ

よくある指導の失敗パターンと対策

失敗①:すぐに答えを教えてしまう

問題:忙しさを理由に考える時間を与えない

対策

  • 「今は時間がないから後で」と時間を作る
  • 簡単な質問でも必ず「君はどう思う?」と聞く
  • 答えを教える前に必ず考えさせる

失敗②:完璧を求めすぎる

問題:少しの間違いも許さず、萎縮させてしまう

対策

  • 60点でも褒める
  • 失敗を責めずに改善点を一緒に考える
  • 完璧より挑戦を評価する

失敗③:一貫性のない指導

問題:その時の気分で指導方針が変わる

対策

  • 指導方針を明文化する
  • スタッフと共有する
  • 一貫した基準で評価する

自主性育成の効果測定

測定指標①:質問内容の変化

【質問の質の向上】
Before:「これ、どうしたらいいですか?」
After:「AとBで迷ってるんですが、どう思いますか?」

【質問頻度の変化】
・月間質問回数の推移
・同じ質問の反復率
・自主判断の成功率

測定指標②:問題解決スピード

【対応時間の短縮】
・問題発見から解決までの時間
・上司への相談時間の変化
・お客様対応の迅速性向上

測定指標③:スタッフの自信度

【自信度アンケート】
・「自分で判断できることが増えた」
・「仕事が楽しくなった」
・「お客様により良い対応ができている」
・「同僚からの相談が増えた」

今すぐできる実践アクション

【今日から開始】質問対応の変更

□ スタッフからの質問に即答しない □ 必ず「君はどう思う?」と逆質問 □ 考える時間(最低30秒)を与える □ 答えがあっていたら必ず褒める

【1週間継続】思考深化の習慣

□ 「なぜ?」の質問を増やす □ 複数の選択肢を考えさせる □ 判断の理由を説明させる □ 成功体験を記録・共有

【1か月で構築】成長システム

□ スタッフ別のスキルマップ作成 □ 段階的権限移譲の設計 □ 成長記録システムの導入 □ 定期的な振り返り会議の実施

まとめ:「指示待ち人間」から「自立型人材」への変革

指示待ちスタッフに悩む経営者と、自立したスタッフに囲まれる経営者。その違いは「指導方法」にあります。

指示待ち型組織の特徴

  • スタッフは常に指示を待っている
  • 経営者への依存度が高い
  • 同じ質問が何度も繰り返される
  • 問題解決力が育たない

自立型組織の特徴

  • スタッフが自分で考え、判断する
  • 経営者は戦略業務に集中できる
  • 質問の質が向上する
  • 継続的な成長が実現する

今日から始める3つのアクション

  1. 次の質問に即答しない(所要時間:0分※習慣の変更)
  2. 「君はどう思う?」を口癖にする(所要時間:0分※意識の変更)
  3. 考える時間を必ず与える(所要時間:各回30秒〜2分)

1か月後、あなたへの質問は「指示を求める質問」から「判断を確認する質問」に変わっているでしょう。

3か月後には、スタッフから「こう判断しました」という報告が増え、あなたは本来の経営者業務により多くの時間を使えるようになっているはずです。

スタッフの自主性は「待っていても育たない」もの。でも「正しい指導」をすれば必ず育つものです。

今すぐ指導方法を変えて、頼もしい自立型スタッフを育てていきましょう!

あなたのスタッフが「指示待ち人間」から「頼もしいパートナー」に変わる日は、思っているより近いかもしれません。

※本サイトに記載された店舗名と店主名は、個店情報のため仮名とさせていただいております。

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この記事を書いた人

コピーライター/店舗利益最大化コンサルタント
中小企業診断士(経済産業省登録番号 402345)
絵本作家(構想・シナリオ担当)

・有限会社繁盛店研究所 取締役
・株式会社繁盛店研究出版 代表取締役
・株式会社日本中央投資会 代表取締役
・繁盛店グループ総代表

1975年 静岡県清水市生まれ(現在:静岡市清水区)
自営業の家に生まれ、親戚一同も会社経営をしていることから、小さい頃より受付台にたち、商売を学ぶ。

大学入学と同時にお笑い芸人としての活動を経験。活動中は、九州松早グループの運営するファミリーマートのCMに出演。急性膵炎による父の急死により大学卒業後、清水市役所に奉職。

市役所在職中に中小企業診断士の取得を始める。昼間は市役所で働き、夜は診断士の受験勉強。そして、週末は現場経験を積むため無給でイタリアンレストランでの現場修行を経験。6年間の試験勉強を経て、中小企業診断士資格を取得。

取得を契機に7年目で市役所退職。退職後、有限会社繁盛店研究所(旧:有限会社マーケット・クリエーション)を設立。

お笑い芸人として活動していた経験から、小売店や飲食店、美容室、整体院の客数増加や店内販売活動に、お笑い芸人の思考法や行動スタイル、漫才の手法などを取り入れることで、クライアントの業績が着実に向上していく。

こうした実績を積み上がるに従い、信奉者が増える。独自の繁盛店メソッド「笑人の繁盛術」の考え方で、コンサルティングを行う。

発行するメールマガジンは、専門用語を使わない分かりやすい内容から、メルマガ読者からの業績アップ報告が多く、読者総数は1万人を超える。

会員制コンサルティングサポート「増益繁盛クラブ」を運営。人気テレビ番組ガイアの夜明けにも取り上げられるなど注目を浴びる。これまで北は北海道から南は沖縄、そして、アメリカからも参加する方がいるなど、多くの方が実践を続けている。

コンサルタントが購読する「企業診断」(同友館)からもコンサルタントに向けた連載を依頼されるなど、コンサルタントのコンサルタントとしても活躍中。

どんなに仕事が忙しくとも毎月1回の先祖のお墓参りを大事にしている。家族を愛するマーケッター。

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